閑話・・・★ 母として妻として 【イコside】

【イコside...】


「あぁ……っ、今日も結局残業か」


 デスクに溜まった書類を見てイコは心底ウンザリした。最近、まともに家に帰れていない気がする。帰れたとしても接待後に寝る為に帰っているようなものだった。


「ユウくんにシウのことを任せっきりだけど……まぁ、いっか」


 あの子も最近反抗期で愛想がないし、きっと私の学生時代の頃のように遊び回っているに違いない。私に似て整った容姿だし貢いでくれる男にも困っていないでしょう。

 そうでなくても十分なお小遣いは渡してあるから勝手に食べてるだろうし。あの年代の子は家で家族と食事をするよりも、友達や彼氏と過ごしたいものだ。それならユウくんも作る手間が省けるからゆっくりできるだろう……。


「———ユウくんには……悪いことしてしまったからね」


 子供の頃の約束を律儀に守ってこんなコブ付き女と一緒になって、本当に馬鹿。

 あの子も世間的に見たらレベルの高い優良物件。会社の子に紹介すれば、羨望と嫉妬の眼差しを向けられるから私も鼻が高い。ただ極度の草食系で男としての魅力が欠けているのが玉に瑕だけど。


 誰もいなくなった無人のオフィス。キラキラと輝く人工の光が、真っ暗な夜空の星の代わりに煌めいている。偽物の輝きでも綺麗に見えるから皮肉なものだ。


「———ユウくんも、いっそのこと他に女を作ってくれればいいんだけどな」


 周りから見たら文句のつけようもない出来た旦那様。でも彼が良ければ良いほど私の肩身が狭くなる。ウチの両親も娘の私よりもユウくんを息子のように可愛がっているし、シウも何だかんだで懐いている。


 私だけ居場所がない。


「どこで間違えたのかな……。シウの為にって頑張ってきたつもりだったのに」


 高校でも大学でも、学業の傍らバイトを掛け持ちして生活費を稼いだ。今時は女も学歴がないとろくな仕事につけないと言われたので一生懸命卒業資格や様々な資格を取得した。

 でも気付いた時には、私はただの無限ATMお金を稼ぐだけの人になっていた。


 外の灯りが滲んで見える。歳をとると涙脆くて敵わないな。


「………今日は強いお酒でも飲もうかしら。家に帰る気にもなれないし」


 粗方目処をつけたタクスを閉じて、イコは帰る用意を始めた。ガラスに映った自分の姿を見て、大きなため息が漏れた。

 気付いたら歳をとったな……。それに比べてユウくんもシウも、どんどん魅力的になっていく。

 劣化する私とは大違い。


 だがそんなイコを唯一支えてくれるのは、行きつけのオネェ店長のいるお店。常連にも容赦なく毒を吐く潔さが心地よかった。

 容姿端麗で女の敵を作りやすい上に、過去の経験から下心で近付いてくる男にもウンザリしていたイコにとって、オネェが丁度良かったのだ。


「ケーキでも差し入れしようかな? それとも辛いのが好きかな、ママは」


 小腹も空いたし炭火焼辺りでも買って行こうと、持ち帰り専門店に予約の電話を入れる為にスマホを取り出した。


「あ………電話?」


 珍しい、昨日も会ったのにまた連絡が来るなんて。イコは指先で通知を消して、お店に持ち帰りの連絡を入れた。


 ・・・・・・・★


「あー、ママ? 今からそっち行っていい? どうせ他の客もいなくて暇でしょう? 差し入れ持っていくからさー、ね? 二名で席を取ってて?」



 ———急遽、イコ視点を執筆しました。いやー……彼女目線でないと見えない世界もありますね。何となく頭には描いていたけど完璧過ぎる旦那って案外プレッシャー重荷にしかならないのかもしれないですね。


 どうしよう、このタイミングで閑話を入れていいのか迷い始めました。ちなみにこれはまだあくまで閑話なので、本格的なイコサイドは後日公開します。


 次の更新は06時45分を予定しております。

 続きが気になる方は、フォローをよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る