第29話 自分の口から言うわけにはいかない
今、自分の置かれた状況が分からなくて、ユウは混乱していた。確か「永谷の慰め会だー」と神崎さんと水城に誘われて飲んで……その後「女で負った傷は女で癒すしかないッス」と言われて女の子のいる店に行くぞーっと水城が意気込んでいて、タクシーに乗り込んだことまではうっすら覚えている。
そして気付いたら
そもそも酔い潰れたのはイコさんの浮気が原因だ。その点に関しては仕方ないと諦めている。元々レスだった自分達なので外に刺激を求めるのも仕方ないし、むしろ自分とシウの関係を考えると……やましさがあった分、安堵した割合の方が大きい。
ただし、それはあくまでユウにとってであり、シウにとっては母親だ。実親の不貞なんて誰が好んで知りたいと思うだろうか?
『僕の口から言うわけにはいかない。伝わるにしてもイコさん本人からじゃないと……』
しかし酔った勢いで暴露していたら、そう思うと気が気じゃなかった。
———いや、それよりも恐ろしいことをやらかしたんじゃないだろうか?
恐る恐る視線を上げると、乱れた着衣を整えるシウの姿が入ってきた。ズレたブラジャーを直して、恥ずかしそうに視線を逸らされた。
「し、シウ……、もしかして僕は」
「あ……えっと……気持ちよかったよ?」
やっぱりしてたかー!
何が18歳までしないだ! 自分が一番歯止めがかかっていないじゃないか‼︎
責任を取らないと……! せめて中途半端な気持ちではないことは伝えなければいけない。
「シウ、僕は!」
キョトンとしたシウが、いつもの何倍も可愛く見える。好きだと意識した途端、美化フィルターが掛かり出した。
こんな綺麗で可愛い子に自分は淫らなことをしたのか……!
彼女の手を取って、両手で包み込んだ。
お酒の勢いってわけじゃない。ちゃんと自分の意思で決めたことだ。
「あのさ、今度……ちゃんとケジメつけるから」
「ケジメ?」
「やっと分かったんだ。その、自分にとって何が大切なのか」
イコさんに本当に好きなのはシウだと伝えよう。たとえなじられたとしても、気持ち悪いと軽蔑されても、それでもいいから……。
「あれぇー、玄関の鍵が空いてるんだけど? 不用心だよ二人ともー」
鍵の音もせずに入ってきた声に、二人は慌てて距離を取った。普段外泊ばかりしている彼女が、まさか帰ってくるとは思っていなかった。
疲れた肩を摩りながらリビングに入ってきたイコに、ユウはかける言葉を見失っていた。
「あー疲れたー。急な残業が入るんだもん。あれ、ユウくんもしかして飲んでる? 珍しいー」
「え、あ……おかえり、イコさん」
「ただいま! シウも部屋から出てるなんて珍しいじゃん? えー、折角ならお酒のつまみに恋バナでもしちゃう? ねぇ、お腹空いたんだけどご飯ある?」
冷蔵庫からビールを取り出して、カシュっとあけて飲み出した。喉越しのいい音が響く。
「……ユウは酔い過ぎて動けないから、代わりに私が出すよ。ナッツ系とチーズでいい?」
「あーん、シウーありがとう♡」
あれ、この人……他の男と不倫したんだよね? なんでこんなに呆気らかんとできるのだろうか?
「もしかしてユウくんも一緒に飲みたい? まだ飲み足りなかったの?」
「———いや、僕はもう大丈夫」
どうしよう、気持ちが冷めた途端、
ユウは逃げるように脱衣所に入った。どうしよう、今がチャンスだったかもしれないのに、本人を目の前にすると何も言えなくなる。
「けど終わらせないと……。こんな状況、誰も幸せになれないよな」
すでにキャパオーバーしたユウは、シャワーのお湯を頭から被りながら項垂れるように蹲っていた。
・・・・・・★
「今日に限って、何故あなたは戻ってくるんですか、イコさん」
次の更新は6時45分を予定しております。
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