第32話 ・・・★ あんたには関係ないでしょ、根岸 シウside
昨日のユウの言葉を聞いてから、シウはずっと上の空でポワポワしていた。まさかあのお母さん一筋で溺愛だったユウが、あの人のキスを拒んでくれるなんて思いもしなかった。
だけど自分とはしたいからって、隠れるようにしてくれたのが心から嬉しかったし、思い出しただけでニヤけて顔が戻らない。
それにしてもどんな心境の変化だろう?
『悲しいけど、私との関係だけでこんなに変わるとは思えない。きっと酔い潰れて帰ってきたことが原因だと思う』
水城からもらった名刺を眺めた。何かあったらいつでも連絡をしていいと言っていたが、本当に問題ないのだろうか?
水城からは調子のいいことばかり口にする根岸と同じ空気を感じた。きっと彼は女の子をダメにする悪い男に違いない。
それに比べてユウは本当に優しい人だ。今まで色んな男の人を見てきたが、彼が一番安心できる。
ユウは……シウが生まれてからずっとそばで見守ってくれていた。建前はお母さんを支えるつもりだったけれど、実際は一人になりがちだったシウの側にいてくれた優しいお兄ちゃんだ。
中学高校、大学に入ってからも、青春そっちのけでシウに構ってくれていた。きっと彼がいなかったら、やさぐれてまともに育たなかったかもしれない。
「………うん、義理の父親に手を出してる時点でまともじゃないと言われたら、それまでだけど」
結婚してからも食事の用意、掃除、シウの学校行事への参加も、全部ユウがしてくれた。彼は父親でもあり、シウにとっては掛け替えのない存在だった。
「おっはよーシウ! 今日も可愛いね♡」
「おはよ、和佳子」
靴箱ではち合った親友に挨拶をして、教室へと歩き出した。本当は今すぐにでも昨日の話を和佳子にしたかった。でもユウはケジメをつけるからと言ってくれたから、それまでは待った方がいいのかもしれない。
早く和佳子に話したいな……そして四人で一緒に出かけたり、遊んだりしたい。
だがそんな浮かれ気味なシウの前に立ち塞がる一つの影があった。シウと和佳子の友人、根岸だった。彼は不機嫌そうに腕を組んで、わざと道を塞いでいた。
「邪魔、根岸」
「なぁ、シウ。お前ライブ行かないって本当か? もうチケットも取ってんのによォ! プレミアム付いてんだぞ? もう取ろうと思っても取れないんだぞ?」
「いいよ、行きたい人にあげればいいじゃん。ほら、根岸の彼女とかつれて行ってあげなよ」
「あんなん彼女じゃねーし! 俺はずっとシウのことが好きだって言ってるじゃねーか! それとも何だ? もしかしてシウの親父のせいで行けなくなったのか? あのクソ野郎、本当に親父か? 本当は金で繋がってる
取り乱して喚く友人のせいで、シウは野次馬に晒される羽目になった。何も知らないくせに、知ったような口を聞かないでほしい。
「お父さんなの。だからアンタが思うような関係じゃない」
「嘘を吐くなよ! なら俺と付き合ってくれてもいいだろ? 俺はお前のことを会った時からずっと好きだったんだ!」
腕を掴んで、気持ち悪い……!
大体根岸の告白は断ったし、この前は他の女の子と遊んでいたくせに、これ以上ふざけたことを言わないでほしい。
「根岸、アンタ……シウが可哀想じゃん! 放せって!」
「嫌だ、付き合ってくれるまで絶対に放さない!」
掴まれた手首は痛いし、周りはガヤガヤとうるさいし、根岸はしつこいし……もう嫌だ、嫌だ……!
「もう私のことは放っておいてよ!」
カバンを振り回した瞬間、角が根岸の鼻を直撃して真っ赤な血が飛び散った。突如起きた流血沙汰に辺りは騒然となった。
「痛ェー……っ、鼻が折れたかも」
ポタポタと落ちる鮮血が、溜まり溜まって薄汚れた白い廊下に広がっていく。突然の事態に慌ただしくなった廊下で、真っ青になった加害者のシウはそのまま職員室に連れて行かれて指導を受ける羽目になった。
・・・・・・・・★
「シウ……シウは悪くないのに……! もう根岸ー‼︎」
次の更新は12時05分を予定しております。
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