第24話 罪悪感の行方

 それから其々の部屋で過ごしたシウとイコ。このままイコのところへ行くのもモヤモヤしたので、結局PV鑑賞に逃げてしまった。動画配信でひたすら最近の音楽を聴くのがユウの趣味の一つだった。


「へぇ、ユウってヌー好きなんだ」


 ソファーの背からもたれ掛かるように声を掛けてきたのはシウだった。彼女も音楽を聴いていたのか、大きめのヘッドフォンをしながらアイスを頬張っていた。


「音楽だけはよく聴くよ。PV見るもの好きだし」

「私も好き。今度、友達と一緒にライブ見に行きたいねって話てたよ」


 シウから同年代の子と仲良くしてる話を聞くと嬉しい反面、まさか男かと心配症も芽生えてしまう。いや、自分以外に興味を持った方が健全なのだけれども。


「誰と行くか、気になる?」

「少しは。誰?」

「和佳子と瀬戸と……あと根岸かな?」


 根岸って、今日会った威勢のいい男子生徒か。明らかにシウ狙いなのに一緒に行くなんて大丈夫なのだろうか? 嫉妬するなんてお門違いなのに少し面白くない。

 そんなユウの心を察したのか、シウはニヤッと笑って距離を縮めてきた。


「行ってほしくない……? もしかして心配?」

「それって日帰り? それとも泊まり?」

「私は日帰りがいいって言ってるんだけど、皆は泊まりたいみたい。ダメ?」


 それは父親としてもダメって言いたいのだが、きっと彼女が望んでいるのはそんな言葉じゃない。


「———ダメ、行かないで欲しいな。心配だから」

「……何で?」


 勘弁して、その先は。イコさんという存在がいるので、シウが望む言葉は告げられない。ユウは寝室に視線をやって、大丈夫と確認してからキスをした。短い、少し触れただけの音の響いたキス。

 あまりにも不意なキスに、シウも紅潮して大きく目開いた。


「行きたいの? シウは」

「———行かない。こんなの、ズルいよ」


 すぐ近くに奥さんイコさんがいるというのに、何をしているんだろう……。眉間を押さえながら考え込んでいると、隣にシウが座り込んで両足を抱えながら寄りかかってきた。


「今日はありがとうね。結局、全部奢ってもらっちゃった」

「社会人だし、父親だし。当たり前でしょ? シウが気にすることじゃないよ」

「父親は余計。でも嬉しかったんだ……私が好きそうな映画を選んでくれたり、予約してくれたり。だってその間は私のことを考えてくれたってことだから」


 子供のくせに大人びたことを言って。甘えるように寄りかかってきたシウをポンポンっと軽く叩いて、二人でPVを眺めていた。




「あれ、ユウくんとシウ? 二人でPV見てたの?」


 気付いたらリビングに出てきていたイコさんに、少し視線を向けて微笑んだ。気付いたら眠っていたシウを起こさないように、そのまま話した。


「お風呂に入るの? 久しぶりだから湯を張ればよかったね」

「いいよ、簡単に浴びてくるから。それにしてもゴメンね。ユウくんに全部押し付けて」

 

 家事のこと? それともシウのことだろうか? イコさんはずっとシウを養う為に頑張ってきたんだからいいんだ。


「———本当にごめん。私みたいなのにユウくんを巻き込んで。私に関わらなければ、もっと違う人生があったはずなのに」

「どうした? 何だかイコさんらしくないけど……?」


 これは自分が勝手にしていることだから、イコさんが気を病む必要はない。だけどイコさんの心中はユウとは異なるみたいだ。


「———もし、ユウくんに他に好きな人ができたら、遠慮なく私を捨てていいからね? 私には止める権利がないから」


 どうしてそんな悲しいことを言うのだろうか? もしかしてシウとのことがバレた? だけどそれならこんな言い方にはならないだろう。


「本当にイコさんらしくないけど、どうした……?」

「いや、ユウくんにはずっと感謝してる。けど同時に罪悪感もあって……ユウくんとは一生、対等でいられない気がするの」


 初めて聞いたイコさんの本音に、頭の中が真っ白になった。

 そんなことをずっと思っていたのかと、胸が押し潰されそうなくらいに苦しくなった。


「あ、えーっと……、ゴメン。今のはナシ。ちょっと言い過ぎた。最近色んなことがありすぎて、ちょっとナーバスになってたみたい」

「———ううん、気にしなくていいよ」

「………ユウくん、大好き。本当にいつもありがとう」


 頬に触れた唇。口ではない場所にキスをしたのが、きっと自分達の答えだ。ユウは大きな溜息を吐いて、浴室へ向かったイコを眺めていた。


「見透かされたみたいだな。最低だ」


 けどイコさんに突き放されたショックよりも、自分もシウに大して同じことをしている残酷さに胸を痛めている自分に気付いて、更に嫌気が差した。



 ・・・・・・・・★


「———そんな酷いことを言うなら、私に譲ってくれたらいいのに。私なら……ユウのことを大事にするのに」


 そして何と……今回はもう一本!

 次の更新は21時05分を予定しております。

 続きが気になる方は、フォローをよろしくお願いいたします。


※ あとスイマセン。前話で修正していたのに、訂正し忘れていた箇所があったので、後から訂正致しました。


「本当にイコさんらしくないけど、どうした……?」

「いや、ユウくんにはずっと感謝してる。けど同時に罪悪感もあって……ユウくんとは一生、対等でいられない気がするの」


———の箇所です。

前はシウのことを好きだと認識させずに書いていたので、「イコさんのこと好きだよ」と言わせていましたが、上記に変更しました。気づくのが遅くなってスイマセン……!

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