第22話 彼が正常、僕らが異常
根岸くんに言われた言葉がズシッと胸中にのしかかる。彼の言うとおりこの歳の差は仮に親子じゃなくても許されない関係だ。変な噂が広がる前に終了した方が彼女の為だろう。彼女の隣にいる人は自分でない人の方が幸せになる。
「ヤダよ、私……ユウと一緒にいれるなら、何でも利用するんだから」
「何でもって?」
物騒な言葉に苦笑が溢れる。元々彼女も不穏な関係になりたいわけじゃないので、突拍子もないことはしないと思うけれど、念の為に警戒はした方がいいのかもしれない。
「えっと、仲のいい親子のふりしたり、外でのデートを控えたり?」
「あ、そっちか」
「そっちって?」
てっきり付き合いを続行させる為に職場やイコさんに脅しをかけるのかと心配したが、自分の早とちりだと安心した反面、疑って申し訳なく感じた。
映画に行きたいって言われた時も驚いたが、滅多にワガママを言わないシウのお願いだったので内心は嬉しかった。リスクは最小限にするに越したことないけれど、この目の前の彼女を悲しませるくらいなら、自分の立場なんてどうなってもいいとさえ思うようになってきた。
「早く行こう。せっかくの映画が始まるよ」
今度はユウが誤魔化すように走り出した。
シウの言うとおり、もしかしたら自分の勝手な選択のせいで彼女の可能性を塞いでしまったのかもしれない。自分がイコさんと結婚しなければ、シウとの未来もあったのだろうか?
『もし僕がイコさんとの関係に終止符を打ってシウとの未来を選べば、シウを悲しませずに済むのだろうか?』
結婚は出来なくても、一緒になる方法はいくらでもある。ただその道を選ぶには多くの犠牲を払う羽目になると思うけれど。
最悪、イコさんと別れた後にシウに捨てられて何もかも失うリスクもあるけれど、選択した自分の責任だからそれはそれで仕方ないことだ。それでも自分はとユウは決意を固めていた。
「コチラ、お客様のシート番号になります。ごゆっくりお楽しみくださいませ」
目的のカフェとチョコポップコーンを手に入れたシウは、目を輝かせて席についた。いつも思うが、なぜ映画館のポップコーンはこんなに大きいのだろうか? とても一人では食べ切れる自信がない。
———いや、それよりもツッコむべきはこのソファー席だろう。巨大なビーズクッションが一つデーンと置かれているのだが、これに座れと?
密着必須。しかも仕切りもなく周りからは丸見え。これは何かの公開処刑だろうか?
他には一組カップルがいるだけだが、上映前からイチャイチャしていて気まずくて仕方ない。
「早く座ろうよ。始まっちゃうよ?」
予告よりもカップルの声の方が耳に届く。服の中に手を突っ込んで
「ねぇ、あの人がチラチラ見てるんだけどー」
「いいじゃん、見せつけてやれよ。きっと欲求不満なんだよ。これもミツコが可愛いのがいけないんだぞ♡」
「やーん、タカシったらー♡」
バカップルの会話に苦笑しか浮かばない。
「もうユウ。他のカップルばかり見てないで、早く」
両手を広げておいでとねだる仕草に、思わず体温が上がる。恐るべしカップルシート……。端の方に控えめに座ったがグイッと引っ張られて、腕枕をするような体勢に座らされた。
これは中々の背徳感———! ピタリと密着して添い寝状態だ。シウの顔がすぐ近くにあって吐息が肌を掠める。
「大丈夫、映画が始まったら暗くなるから、周りも気にならないよ?」
それは余計に危ないだろう?
結局、もう一組のカップルは我慢しきれずにイチャイチャを始めるし、シウはシウでペタペタと触ってくるし、映画の内容は全く入ってこなかったが、むしろよく耐えたと自分を褒めてあげたいほどだ。
「我慢しなくてよかったのに。私はいつでも歓迎だよ?」
「それは絶対にないし。あったとしてもこんなところでしたくない」
大体、我慢させられることには慣れている。これしきのこと大したことではない。
「……こんなところではって、ちゃんとしたところだったらありえるの?」
「———さぁ?」
満足そうに笑うシウに腕を組まれながら、ユウ達は映画館を後にした。
・・・・・・・★
「ユウとならば、たとえ茨の道でも喜んで歩くよ……?」
次の更新は12時05分を予定しております。
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