第21話 父親とデートって、痛い奴だな!

 シウの授業が終わりそうな時間に合わせてユウも駅へと向かった。今日は迎えではなく、現地で待ち合わせをしようと提案されたのだ。

 久々に普段着で街に繰り出すので妙に落ち着かず、額に変な汗がにじみ始めた。


 無難に黒のスリムパンツに白シャツに黒Tシャツとグレイのタンクトップを重ねて着たけど、変じゃないだろうか? スーツ以外で街を歩くなんて恐ろしい。人の目が気になって仕方ないし、特に今日自分の隣を歩くのは可愛くて人目を惹くシウだ。

 絶対に不釣り合いだと好奇な目に晒されるに違いない。


 想像しただけで恐ろしい。親子、親子、親子………親子で映画を見に行くだけだから、変なプレッシャーは感じなくていいはずなのに。

 

「人の視線を気にしてる時点で、僕も大概だよな」


 実際もっと歳を取れば十歳差なんて大した違いじゃない。でも今はとてつもなく大きくて、どうしようもない差だ。彼女の貴重な時間を自分が浪費していいのか、それすら考えてしまう。


 早く目を覚ましてくれることを祈るしかない———……きっと18歳になる頃には気付いてくれるはずだ。そう言い聞かせてユウもドアを閉めた。



 待ち合わせは駅ビルの一階のファッションショップ。丁度欲しいと思っていたバングルを見ながら待っていた。けどなー……社会人になるとつけなくなるよな。勿体無い。


「これが欲しいの? ユウ」

「わっ、ビックリした」


 いつの間にか背後から覗き見ていたシウに、驚いきながら身体を向き直した。今日は予め私服に着替えてたらしく、大きめのロゴTシャツに見えるか見えないくらいのデニムのショートパンツと露わな太ももが視界に飛び込んできた。


「ユウの私服姿って新鮮だね。大学生みたい」

「27歳に大学生は……褒められてるのか微妙だね」

「褒めてるんだよ? ウチの学校の新人教師よりも、ずっと若いしカッコいい」


 ギュッと腕を掴んで、押し付けられた胸の感触が伝わってくる。煩悩、消え失せろ……!


「早速だけど、映画の時間がもう少しなんだ。急いでもいいかな?」

「えー、もう少しお店見てまわりたかったのに。でもしょうがないか」


 指と指の間に絡ませて、所謂恋人繋ぎをして映画館へと向かった。こんな場面を誰かに見られたら一発でアウトだろう。

 少し仲がいい親子ってことでスルーしてもらえないだろうか?


「え、シウ? シウだよな?」


 ———早速バレたかと顔を顰めて振り返ると、見覚えのある男子校生が彼女と一緒に呼びかけていた。たしかこの前、シウと一緒にコンビニでたむろっていた奴じゃ?


「あれ、根岸? アンタ部活は?」

「それはこっちのセリフ。こんなところで何をしてるんだよ」


 ジロジロと見定めるように睨んで、根岸くんはシウに近付いてきた。


「コイツ、この前迎えにきた男だろう? やっぱお前の男だったのか?」

「別にアンタに関係ないでしょ? ウチら今から映画だから放っておいてよ」


 邪険にされて不機嫌な根岸くんだが、申し訳ないけれど本当に彼にかまっている時間はない。おそらく彼はシウに好意を寄せていたのだが、諦めて他の女の子と遊び始めたといったところだろうか。そんな男に大事な娘を渡したくない。

 一先ず映画の上映時刻が迫っているので、根岸達を放置して足早に映画館に向かう事にした。


「おい、シウ! お前……未成年が大人と付き合うと淫行になるんだぞ?」

「バーカ。父親と遊んでるだけだし……」


 体のいい言い訳なのに、一番使いたくなかった言葉にシウは口を籠らせた。


「……ごめん、シウ。僕のせいで」

「違うよ。本当は分かってるんだよ。ユウはきっと父娘おやこでも大事にしてくれるって。私だけが我慢してれば良かったんだけど……。でもその関係だったら、こんなふうに繋げなかったんだよね? こんなふうにドキドキすることもなかったんだよね……?」


 シウは涙を堪えながら必死に笑みを浮かべた。その笑顔が眩しくて、真っ直ぐ過ぎて、今のユウには苦しかった。



 ・・・・・・・・★


「ただ好きなだけなのに、許されないのって……悲しい」


 いつもお読み頂きありがとうございます!

 昨日は皆様のおかげで、たくさんの★や応援を頂き、ぐんと伸びました。

10月21日ラブコメカテゴリ週間ランキング29→25→22となりました!

 週間総合ランキングは166→135→118です。す、スゴい……!


 次の更新は06時45分を予定しております。

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