第15話 若い男女がホテルに入って……最早親子とかの概念は関係ない

 エントランスに入るなり、別世界のような雰囲気に飲まれたシウは目を輝かせて見回していた。真っ白な大理石風の床に、手垢ひとつないガラス張りの壁。そしてシンデレラ城を連想させる大きな階段と豪華絢爛なシャンデリがキラキラと輝いていた。


「綺麗、素敵……!」

「気に入ってくれたようで良かったよ。予約していた店は十五階だね」


 普段口数が少ないシウだが、感動して嬉しそうなのが一目で分かった。学業や部活等で忙しくしているシウの為に家で食事をとることが多かったが、これからは色んなところに連れて行ってあげようと考えさせられた。


 そういえばイコさんは頻繁に飲み会や食事に行っているな。それこそ週の半分は食事を済ませて帰ってきている気がする。


 小さい四角い帽子を被った従業員に案内されてエレベーターに乗り込んだ。慣れないヒールに戸惑うシウに手を差し伸べて、腕を掴むようにいざなった。彼女は顔を真っ赤にしながらギュッと掴んで、自らが世界で一番幸せな女性なのだと主張するように綻んだ笑みを浮かべた。


「えへへ……、好き」


 そんなにホテルが気に入ったのかな? さっきから好きしか口にしていない。クールビューティーで冷静なシウの珍しい一面にはにかみながら、二人はエレベーターを降りた。


 この店を訪れたのは二度目で、一度目は仕事でエリアトップになった時に神崎さんに祝ってもらった時だった。水城と一緒に奢ってもらったのだが、予約した際に結構な値段だったことに驚愕し絶句したものだ。


「え、こんな高そうなお店、本当にいいの? 一階のカフェでパンケーキとかコーヒーとか飲むくらいだと思っていたのに」

「たまにはいいんじゃないかな? ほら、普段自炊してるし。今日はイコさんも飲みに行くって言ってたし。僕らもたまには贅沢しよう?」


 それにこれは罪滅ぼしも兼ねているので。

 彼女の半裸を見てしまったことと、見苦しいものを見せてしまったお詫びを———思い出しただけで死にたくなる過去の汚点。彼女の脳内からも抹消したいほどだ。


「———もしかして、狙ってる?」

「え、何を?」


 シウの指がユウの心臓を指差し、クルッと円を描いた。


「全力で口説かれてるとしか思えない。ますますユウのことを好きになっちゃうんだけど」


 え、違……っ! むしろ諦めて欲しいと説得しようと思っていたのに! 何で?

 取り乱して慌てるユウを置き去りに、彼女は先にテーブルへ案内されて歩き出した。


「———好き、ユウ」


 振り向きながら言われた言葉に完全に射抜かれたユウは、そのまま胸を抑えるように蹲った。



・・・・・・・・★


「忘れちゃいけない、僕らは親子、親子……絶対にそれは忘れちゃいけないのに———!」


 次の更新は12時05分を予定しております。

 続きが気になる方は、フォローをよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る