第13話 ・・・★こんな夢のような時間、嘘みたい【シウ視点】

シウside……★


 ユウの車の助手席に座るのは日常茶飯事なのに、今日はやけに心臓が騒がしくて落ち着かない。隣には頬杖をつきながら運転する彼の横顔で、さらに心拍数が跳ね上がった。


『こんなの死んじゃうよ、もう。かっこ良過ぎる……!』


 熱くなる顔を両手で隠して、嬉し涙を堪えた。こんなふうに二人で食事に行くなんて初めてで、どうしたらいいか分からなかった。

 友達に頼んでいつもと違う雰囲気にメイクをしてもらったのだが、ユウは気づいてくれたかな?


『あ、下着……こんなことなら可愛いのを付けてきたらよかった。今日に限ってスポーツタイプのボクサーパンツなんだけど』


 服と一緒に下着まで買ったら、流石に引かれるかな?

 そんなことを考えながらシウは二人きりの状況を楽しんでいた。


 ずっと好きだったユウお兄ちゃん。父親がいなくて寂しかったシウだったが、その分ユウが側にいてくれたから悲しくなかった。何かと家を空けがちだった母親よりも、一緒に過ごしている時間が長かったと思う。


『ねぇ、おばあちゃん。ユウお兄ちゃんはシウのお兄ちゃんなの?』


 不思議に思って聞いてみたら、おばあちゃんは顔を横に振った。


『違うわよ。ユウくんはご近所さん。そうね、シウにとって幼馴染の近所のお兄ちゃんってところかしら』

『おさななじみ?』

『そうよ、本当のお兄ちゃんではないけど、シウちゃんにとって大事なお兄ちゃん』


 本当の兄妹じゃないから、好きになってもいいし結婚もできると知って、密かに嬉しかったのを覚えている。


 でもユウが大学を卒業すると同時に、しんじられない出来事が起きた。大好きだったユウお兄ちゃんが、お母さんと結婚すると告白してきたのだ。


 あまりのショックにしばらく誰とも口をきかなかったことを覚えている。ずっと泣いて、悔やんで、自分の気持ちに蓋をした。一生打ち明けることなんてないと思っていたのに、現在この状況だ。


『嬉しすぎて気を失いそう……! もう、今日もカッコ良すぎるんだけど! 少し着崩したスーツとか、意外とゴツい手の骨格とか、少し垂れ目がちな目が色っぽいところとか……全部好き!』


 そういえば、あの色素の薄い唇にキスしたんだよね……。ファーストキス、ユウも少しは意識してくれたら嬉しいけど、どうだろう? こうしてホテルのディナーに誘ってくれたってことは、少しは期待していいのかな?


『実はホテルの部屋も予約していたんだ。今日は朝まで語り合おう』———だなんて言われたらどうしよう!


 いや、何も準備してない! ユウは、一体どんなつもりで誘ってくれたんだろう……?


「何? どうした?」


 甘くてハスキーな声、好き!


「……何でもない。気にしないで」


 あまりの感情の高ぶりを抑えるのに必死で、つい塩対応で返してしまう。もっと可愛い態度で返せたら、こんな苦労しなくて済んだかもしれないのに。


「ねぇ、ユウ」

「どうした、シウ」


 大好き、世界で一番……ユウが好き。絶対にお母さんよりもユウのことが好きな自信がある。


 でもユウが好きなのは私のお母さんだから、その言葉好きを押し殺して「何でもない」と呟いた。




 ・・・・・・・★


「好き、好き、好き……ずっと好きだよ、ユウ」


 

 お読み頂き、ありがとうございます。

 やっと書けたシウ視点。子供のシウにとって二人の結婚は本当に迷惑な展開だったでしょうね……。


 次の更新は12時05分を予定しております。

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