第11話 嘘付きはゲスの始りですよ?

 職場に着いてからユウは「今日は急なアポが入ったから遅くなる」とメッセージをイコに送った。やましい気持ちがある分、心が痛むが仕方ない。


「えー、先輩。今日は直帰って言ってませんでしたか? 何か用事ですか?」


 スマホを覗き見た水城が痛いところを突いてきた。思わず誤魔化すように隠したが手遅れだった。


「な、別に水城に関係ないだろう?」

「あるっすよ! 今日は合コンなので急ぎの仕事を頼みたいと思ってたんですから」


 何故後輩の仕事を先輩である僕が———と冷ややかな目で見ていると、バシーンと神崎がはたいてくれた。気持ちのいい音に胸がスカッとした。


「それは水城の仕事だろう? 楽しようとするな!」

「えぇー、だって神崎さーん。俺ばかり仕事が多くないっすか?」

「それはお前が怠けるから溜まっているだけだろう?」


 相変わらずの通常運転にユウは苦笑いを浮かべつつ、癒される自分がいることに気付いた。普段の自分なら面倒としか思わなかったのに不思議だ。


「それはそうと永谷先輩、何の用事ですか? もしかして女の子ですか? 浮気っすか? 不倫っすか?」

「コラ、水城! 永谷をお前と一緒にするな」


 ハハっと空笑い浮かべつつ「娘と約束したんですよ」と本音を混ぜながら話した。

 嘘ではないし、今の時点でやましいことではない。いや、シウに攻めると宣言された時点でアウトかもしれないが、少なくても彼らには知り得ない情報だ。


「娘の機嫌を損ねてしまったから、美味しいデザートを奢るよって約束して……。けど奥さんにバレると三人分になるじゃないですか。だから、ね?」


 それらしい言葉を並べて何事もなかったかのようにやり過ごす。だんだん上手くなる嘘に心が痛むけど、それが円満にやり過ごす為に必要ならば仕方ないことなのかもしれない。そう自分に言い聞かせて、胸の痛みを和らげた。


「へぇー、永谷先輩って家庭的なんすね。義理の子供の機嫌まで取って、生きるのツラそう」

「こら、水城。お前って奴は一言多いなー!」


 はははー。そんな出来た人間じゃないんだけどね、実際は。


「でも、もしそれが嘘で他の女の子と遊ぶなら、飛んだゲスですけどね」


 ———ううん、違うよ。いっその浮気の方がどれだけマシか。これ以上の嘘の上塗りは不可能だと、ユウは笑って黙って誤魔化した。



 ・・・・・・・★


「ゲスゲスゲス……もう僕はダメなのかもしれない」


 お読み頂き、ありがとうございます。

 次の更新は12時05分を予定しております。

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