第8話 解放され、そして———自爆した

 その日はイコさんも出張でシウも友達の家に泊まると連絡が入った為、久しぶりの一人っきりにユウは浮き立つ気持ちを隠せなかった。


「今日は何を食べようかな? ラーメン、それともチキン? いやピザも捨てがたい」


 普段は女性陣に気を遣っているので、自由への反動がすこぶる大きい。はやる気持ちを抑えながらそわそわした足取りで用意を始めた。


 前回はトラブルの為急遽抜いたが、普段はバレないように気を遣っている自慰行為オナニーライフ。今日はリビングの大きなテレビでイキたい———!


 大切にしているイコさんの為に性行為は控えているもの、性欲がないわけではない。むしろ刺激的な日常のせいで人よりも処理が大変なのだ。何よりも年頃の娘がいる環境で、嫌われるようなことはしたくない。

 こんな時くらいは己の欲望を思う存分発散させて欲しいと、兼ねてから計画を立てていたのだ。


 ユウはピザとコーラ酎ハイを机に並べ、お気に入りの映画を見ながら食事を始めた。食欲を満たし、シャワーを浴びて、ようやく鑑賞タイムだ。

 万が一に備えてバスタオルをソファに敷いて、いざ———!


「…………………うん」


 悪くない、むしろ良い。

 普段、スゴく気疲れしている自分に気付く。この背徳感が堪らない。


 色っぽい大人の魅力を秘めたイコさんと瑞々しい若さが溢れるシウ。どっちも好み過ぎて刺激が強すぎる。たまにはこんなふうに抜かないと頭がおかしくなりそうだ。


「ゴム、つけていた方がいいかな」


 実用では使ったことのない避妊具を手に取り、下半身に手を伸ばす。自分一人で処理しなければならないのは虚しいが、我慢し続けるよりはマシだ。


 大画面で乱れる女優を見ながら、自らを慰める。そんなシュールな現場に———……


 ドサっ……。


 荷物が落ちる音が鈍く響いた。聞こえるはずのない音にユウは振り返ると、そこにはテレビを凝視したブレザー姿の女子高生が立っていた。


 ———シウ? 何で⁉︎


「え、え……? ユウ……?」


 蒼白した顔で口角を引き攣らせて、シウはユウに視線を向けた。着衣のままではあるものの膨張して反り立った股間のものを剥き出しにしていたユウは、絶望的な顔で固まっていた。


 よりによって何故シウが———?


「と、友達の家に泊まるんじゃなかったのか?」

「え……いや、お母さんが出張でいないって聞いたから帰ってきたんだけど」


 何で帰ってくるんだよ!

 気まずくないのか? 父親と二人きりなんてキモいって蔑む年頃だろう? そう思ってたからあえて泊まってくることにも何も追求しなかったのに!


 一先ず収集をつけるのが先だ。下半身をしまって慌ててテレビを消した。だが何事もなかったように振る舞うにはダメージが大きい。


「———ユウも一応、男なんだ」


 うっ、何も言わないで下さい……。


「ご、ごめん———っ、二度と家でこんなことをしないから、許してください……っ!」


 迂闊にリビングなんかで羽を伸ばしたのが悪いんだ。いつものようにコソコソと自室で励めば良かったのに、後悔先立たずとはこのことなのだと痛いほど思い知った。

 これで完全に嫌われたと自己嫌悪に陥っていると、シウが目の前に立って下半身に触れてきた。


「いっ、シウ?」

「———溜まってるんじゃない? 男の人って、出すまでツラいんでしょ?」


 いや、待って……そんな挑発的な目で見られたら、いくら何でも耐えられる自信がない。逃げるように踵を返そうとしたが、腕を掴まれて阻止された。


「あのエロ動画って女子校生モノ? 好きなの、そういうの?」

「違う、それはたまたまで……」

「あの女優って、ちょっと私に似てなかった? もしかして私のことをそんな目で見てたの?」


 それ以上のことは追求しないでほしい。いや、違うんだ……シウではなくてイコさんに似た女優で選んだんだ。でもそうだよな、二人は親子で姉妹に間違えられるほど似てるんだから、必然的にシウにも似ていて……。


 ペロッと唇を舐めた舌が、ゆっくりと近付いて首筋をなぞるように這ってきた。ゾクゾクと悪寒のような感覚が背中を走る。


 このまま社会的に殺されるのだろうか———?


「ねぇ、ユウは……お母さんに秘密にしてほしい?」

「———え?」


 イコさんだけでなく、皆に秘密にして欲しいのだが、それを言ってしまうと逆に脅されそうなので黙ったまま頷いた。


「いいよ、秘密にしてあげる。その代わり……交換条件がある」

「交換条件?」


 何だろう、お小遣いか? 金銭をせびられるのだろうか?


「私がお願いした時、一緒にシて?」

「して?」


 シてとは、どういうことだろう?

 興奮状態が収まらない状態では卑猥な行為が頭に浮かぶのだが、シウに限ってそんなことないよな? だって自分達の関係は、赤ん坊の頃から見守り育ててきた親子なのだから。


「シてくれないとお母さんにバラすからね」

「いや、それは勘弁して……」


 娘に脅される父親って、傍から見たらどう見えるのだろう。情けなくて涙が止まらない。

 だが拒否できないユウにシウは満足そうに笑って、再び首元に唇を押し当ててきた。ゾクゾクと首筋に吐息がかかる。


「約束だよ、ユウ。バラされたくなければ私に付き合ってね?」


 その時のシウは、幼少期に好きだったイコさんと同じ顔で笑っていた。



 ・・・・・・・★


「こんなのただのラブコメご褒美じゃん。まぁ、いいけど」




 お読み頂き、ありがとうございます。

 今回は急遽3話更新にしました。動きましたね、大きく……。


 次の更新は06時45分を予定しております。

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