第5話 本当にお父さん? 彼氏の間違いじゃなくて?

 それからしばらくしてシウから迎えにきて欲しいと連絡が入った。お酒が入って上機嫌なまま眠ったイコさんをベッドに運んで、ユウは施錠して家を出た。


 県内でも比較的有名な進学校に入ったシウ。子育てに翻弄されていたイコさんを見ていたユウは、娘である彼女には青春を満喫してほしいと切に願っていた。


『だからと言ってイコさんが不幸だったとは限らないけど。でも、少し可哀想だよな』


 16歳という若さで妊娠、出産。そして子育ての日々。男の自分には想像のできない苦悩の連続だったと思う。

 自分がもっと頼りになれば。自分が年上で経済的にも精神的にも支えられていたら、もっと違う人生があったのではと考えることも少なくなかった。それは結婚した今でも同じだ。自分にできることは全部して、少しでもイコさんの負担を軽くしたいと常々思考を重ねていた。


 色々と悩んでいるうちに待ち合わせのコンビニに到着したので、路肩に駐車して連絡しようとスマホを取り出した。

 だが入り口から少し離れた場所に数人の談笑してる高校生が目に入り、その中にシウの姿があるのを確認した。男女関係なく楽しそうに笑って、まさに思い描いていた理想の青春の1ページだ。


 それにしても高校生になったシウは、本当に母親イコそっくりに育ったと心底感じていた。いや、もしかしたら初恋の人イコ以上かもしれない。テレビに映ったアイドルやモデルよりも可愛い娘を見て、つるんでいる同級生が羨ましく思うほどだった。


「シウ、迎えにきたよ」


 水を差して申し訳ないと思いつつ、ユウは車から降りて声を掛けた。集まる視線に嫌悪感が混じる。特にシウの肩に手を置いた青年から痛いほど伝わってきた。


「え、この人家族? シウって兄貴がいたっけ?」


 相変わらず不審な目を向けてくるが、ユウはニッコリと微笑んで「いつも娘がお世話になってます」と丁寧に挨拶を交わした。


「マジでー? カッコいいじゃん! ねぇシウ! あんなイケメンなパパがいたなんて聞いてないんだけど⁉︎」

「別に大したことないよ。それじゃまた明日ね」


 そう言って青年の手を払って、ユウの腕を掴んできた。友人Aには申し訳ないが、優先してもらえたみたいで少し優越感が込み上がる。


「本当はお父さんじゃなくて、隠れて付き合ってる彼氏だったりして。根岸、あんたシウのこと狙ってたんでしょ? 残念だったね」

「うるせぇな、別に彼氏だろうがなんだろうが関係ねぇよ!」


 色々好き勝手言われているようだが、自分達は親子だし、血の繋がりはなくてもシウは大事な娘であることには代わりない。


「友達は送らなくて良かった? ついでだから送っても良かったんだけど」

「いいよ、家近い子ばかりだし」


 そう言ったシウがジッと見つめてきたので空笑いをしたが、すぐに目を逸らされた。何だろう? もしかして「ダサい格好で迎えに来やがって」と怒っているのだろうか? 心配性のユウは何かと不安になりがちだった。


「———早く帰ろう。お腹空いた」


 友達はチキンやパンを頬張っていたけれど、シウは食べなかったのだろうか? それとも成長期で食べ足りないのかな?

 何にせよ自分の作ったご飯を楽しみにしてくれていたみたいで、少し嬉しい。


 ユウはシウの頭をポンと撫でるように叩いて、車に乗り込んだ。



・・・・・・・・★


「………(車中の無言が重い)」


 お読み頂き、ありがとうございます。

 次の更新は12時05分を予定しております。

 続きが気になる方は、ブックマークをよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る