第3話 先輩って奥さん寝取られて孕まされたってマジですか?

永谷ながや先輩のお子さんって、血が繋がってないってマジですか?」


 カフェオレを片手に尋ねてきたのは、ユウの後輩の水城みずき れんだった。人によっては殴られても仕方ないデリケートな話題を、呆気らかんと聞いてくる彼は余程肝が据わっているのか神経が図太い人間なのだろう。


「娘さん、結構大きかったですよね? そんな子と一つ屋根の下にいて、エロい気持ちになったりしないんですか?」


 ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべて、コイツはどんな答えを求めて質問しているのだろうか? 生憎、彼の期待に応えられる柔軟で臨機応変な思考をユウは持ち合わせていなかった。


「そんなわけないだろう? 赤ん坊の時からずっと見てきているんだから」

「え、赤ん坊?」


「なんだ、水城は知らないのか? 永谷と奥さんは幼馴染で、奥さんが妊娠してた時からずっとそばで見守っていたんだぞ」


 そうフォローを入れてくれたのは、上司である神崎かんざき 紗季さきさんだ。ハウスメーカーの営業として働いているユウにとって頼りになる姉御のような存在だった。


「へぇー、そうなんだ。けど先輩って今年27歳でしたよね? お子さんいくつでしたっけ?」

「16歳だよ。すっかり反抗期になって困ってるよ」

「じゅ、16歳⁉︎ いや、犯罪の匂いしかしないんですけど?」

「それはお前の頭がやましいことで一杯だからだぞ? 水城、暇ならポスティングにでも行ってこい」

「えぇー、嫌っすよー……こんな暑い中」

「それならアポイントが取れそうな顧客に再度連絡でも入れろ! ったく、これだから今時の若者は……」


 そう言う神崎もまだ三十前半だ。水城とは十歳違うとはいえ、若者と切り離すにはまだ若いとユウは苦笑を溢していた。


「けど永谷先輩、よく血の繋がりのない子を育てようと思いましたね。俺なら絶対に無理」


 ———この手の言葉は耳にタコができるほど聞いてきた。


「初恋の人だったんだ。大きくなったら結婚しようって約束もしてたし」


 そんな彼女の子供だから、本当の子供のように大切に育ててきたんだ。


「え、それじゃ奥さんに浮気されたんですか? それとも寝取られ? どっちにしろ酷い奥さんっすね! そんな他の男の子供を産んだ人と結婚するなんて、先輩も普通じゃないっすよー」


 ———うん、そこまでデリカシーのない言葉を言われたのは初めてだ。


 普通じゃないか……。

 ユウが幼かったのも一つの理由かもしれないが、当時の彼女を見て支える選択はあっても、見捨てるなんて考えもしなかった。


「浮気されて許せない気持ちも分かるけど、僕は彼女を失う方が嫌だっただけだよ。まぁ、今されたら同じ選択ができる自信ないけど」

「いやー、良い人通り越してバカっすよ、先輩」


 そんな水城の頭をユウの代わりに神崎が小突いた。


「そんなことを平気で言えるお前は、救いようもないバカだけどな!」


 だがそんなチームの二人を、ユウは嫌いにはなれなかった。ただ今回言われた言葉だけは、いつものように聞き流せなかった。その理由を見つけることはできなかったけれど。



・・・・・・・・★


「けど神崎さん。俺、永谷先輩のことが好きだから心配してるんッスよ? それは嘘じゃないッス!」

「だとしてもお前は大馬鹿野郎だ」



 お読み頂き、ありがとうございます。


 すいません、やはり一日2回更新に変更します。急に変えてすいません。

 次の更新は6時45分を予定しております。

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