第10話レベルアップ

実家から戻ってきた次の日。

出勤時間が重なる僕らは揃って電車に乗り込んでいた。

「五人乗りの車でも買ったほうが後々節約になるんじゃない?」

上司である時雨ミサトが唐突に車内で口を開くと僕らは軽く頷いた。

「確かにそうかもしれませんね。通勤のための定期券の金額も馬鹿にならないですしね」

九条カレンは賛同するように口を開くと満員電車で窮屈そうにしていた。

「私もまだ社会人になって一年目ですけど…流石にこの満員電車をいつまでも耐えるのは…キツイです」

古川小豆もハンカチで口元を抑えながら険しい顔付きで口を開く。

「皆は貯金どれくらいあるの?」

名波萌は小声で僕らにだけ聞こえるように口を開く。

その言葉を受けて全員がスマホを取り出すとそれぞれの貯金額をグループチャットに打ち込んでいた。

「なるほど。これなら車ぐらい買えるでしょ」

名波萌は適当な口調で口を開くと数回頷く。

「とりあえず帰ったら瑠海と汐にも相談してみよう」

僕の提案に彼女らは頷くと職場へと向かうのであった。


仕事を終えて全員が家に帰ってくると今朝の電車内での話の続きは始まった。

「んん〜…バス買う?」

瑠海はその様な提案をしてくるのだが僕らの貯金額では簡単に手を出せるような代物ではない。

「良いよ。私が買うから。運転は事務所の人間にしてもらえばいいし。皆の通勤退勤の送迎もさせるよ」

「そんなに何もかも任せてしまって良いのかな…」

瑠海に尋ねると彼女は笑顔で頷いてくれる。

「タカシの為になるなら何でもするよ」

「そっか。ありがとうね」

「うん♡いつか皆で遠出しようね」

「あぁ。そうしよう」

瑠海の決断により話は一気に進んでいった。

と言うよりも瑠海の事務所の人間が話を進めてくれたらしい。

一ヶ月もしない内に自宅の駐車場にバスが納車されるのであった。


「バスだけじゃ不便だろうから。普通車も買っておいたよ」

瑠海は何でも無いような口調で口を開くと五人乗りの普通車を買ってくれたらしい。

「そんな…悪いよ。そっちは僕らもお金を出すから…」

瑠海に対して申し訳無さが増すのでその様な言葉を口にするのだが…。

彼女は笑顔で首を左右に振った。

「お金出すことぐらいしか私には出来ないし。それでタカシの助けになっているのであれば私はそれで十分だよ」

「そんなことは…」

僕は瑠海の元まで向かって歩いていくと彼女を優しく抱きしめた。

「これで十分。もっと相手して欲しい時はちゃんと言うから…ね?♡」

「あぁ。いつでも呼んでくれ」

「ありがとう」

そうして瑠海のお陰で僕らの移動手段は何段階もレベルアップするのであった。

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