第9話ツーカーな幼馴染

「タカシ…噂で聞いたけど…毎日違う女性と遊んでいるんだって?気を付けないとその内、刺されるよ?」

本当に久しぶりに帰省した地元で幼馴染の真壁真央まかべまおに注意を受ける。

「誰からの噂で聞いたんだよ。真央は地元にいるんだから誰とも接点ないだろ?」

「噂は噂よ…」

真央は気まずそうに顔を背けると苦しい言い訳のようなものを口にする。

「まぁ気をつけるよ」

「そうして。それで?いつまでこっちに居るの?」

「三日ほどかな。実家でゆっくりしているよ」

「じゃあ私も崎森家に行って良い?」

「許可なんていらないだろ。真央は殆ど家族みたいなものだし」

「そう。じゃあお邪魔するね」

地元の駅まで迎えに来た真央の車に乗り込むと彼女はそのまま崎森家に向けて車を走らせるのであった。


「ただいま」

家の中に入ると母親が僕を笑顔で迎える。

「移動で疲れたでしょ?ゆっくり休みな」

「駅に真央が迎えに来てくれたから。そんなに疲れてないよ」

「あら。ありがとうね。真央ちゃん」

母親は僕の隣に立っていた真央に顔を向けると感謝の言葉を口にした。

「気にしないでください。私もタカシが帰ってくるの待ち遠しくしていたので…勝手ながら迎えに行きました」

「あらあら。本当に二人は昔から仲良しね」

「そうですね。仲良くさせてもらっています」

「そのまま結婚してくれたら良いんだけどね。そうしたらタカシも地元に戻ってくるだろうし」

「母さん。余計なこと言わない」

僕は母親に軽く注意をすると靴を脱いでリビングへと向かった。

リビングのソファで父親はテレビを見ていた。

「ただいま」

父親に声をかけると軽く手を挙げて応えるだけだった。

別に仲が悪い訳では無い。

寡黙な父親というだけで不機嫌であるわけではないのだ。

「お昼食べたの?ちゃちゃっと用意するよ?」

母親は僕に声を掛けてくるのだが、それに首を左右に振って応えた。

「真央と外で食べてくるよ」

「そう?気を付けてね?」

「うん。夜は家で食べるから」

「はいはい。いってらっしゃい」

荷物を家に置くと再び真央と外に出て彼女の車に乗り込んだ。

そのまま目的地のカツ丼屋に向かうと真央と二人で昼食を取るのであった。


「良かったの?お母さんの手料理食べたかったんじゃない?」

車を運転する真央はフロントガラスの向こうを眺めながら適当に声を掛けてくる。

「良いんだよ。僕が帰ってくるってだけで無理をしてほしくないからね」

「昔から母親思いだね」

「そうでもないさ」

「それでね。タカシ…」

「ん?」

「今付き合っている人達と別れても良いって思ったとしたら…私のところに来て」

「別れても良いって思うかな…?」

「じゃあ言い方変えるね。私が、私だけが良いって思ったら私のもとに帰ってきて」

「わかったよ。一応心に留めておく」

「前向きに頼むよ」

「そうだな」

そんな他愛のない世間話のように二人の将来について話を進める幼馴染とのツーカーな会話なのであった。

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