1-14 疑惑
7月5日 土曜日
今月、最初のサークル活動の日。私と里見は駅に来ていた。
今日は、幼稚園のイベントの手伝いをすることになっている。
地域のイベントの一環でもあり、幼稚園生たちと鬼ごっこや軽い運動をするという。普段、運動していないので不安が付きまとうが里見は平気そうだった。
「私、子供って好きなのよね」
「え、そうなんだ」
「うん、可愛いもん」
里見は子供好きみたいだ。私は正直言って苦手だ。どう接したらいいかよく分からない。自分にもあった時期のはずなのに。
先輩たちが駅に来る。今日は佐野さん含め1年生は私と里見、上級生は佐野さんと他に数名といったところだった。
「茉莉花ちゃん、久しぶりだね」
「お、お久しぶりです」
「最近はどう、講義とか」
「順調です、今のところは」
「そっか、それならよかった。あのドリンク気に入ってくれてるみたいだね」
「え、ええ、美味しいです」
なんで知ってるんだろうと思ったが、あの時に説明されたことを思い出した。
紹介した人にインセンティブが入るという話だ。私が買うことで佐野さんの利益になっているのだろう。私は佐野さんに少し貢献できているようで嬉しい気持ちになった。
雑談をしつつ駅から10分ほど移動し、目的地の幼稚園へとたどり着いた。
先生方だけでなく、父兄の方や地域のお年寄りなども集まっていた。
奥の更衣室へ案内され、ジャージに着替えた。
グラウンドに出ると幼稚園生に囲まれてしまったが里見がうまく何とかしてくれた。
「今日は大学のボランティアサークルの方々が遊びに来てくださってます。ご挨拶しましょう」
先生がそう言うと子供たちは元気よく挨拶する。
『よろしくおねがいします!!』
その姿は微笑ましさがあった。
1時間ほど私たちは交代しながら子供達と遊んだ。
体力が限界に近づきつつあった時に先生方がご飯にしましょうといい、少し準備を手伝う。
先輩方が幼稚園の中でカレーを作っていた。通りで先ほどからいい匂いがすると思っていた。
子供達を中へと誘導し、みんなで食事をとる。
普通のカレーといった感じではあったが、とても美味しく感じた。運動した後のご飯は体に染みる。
食事を終えて、少し休憩した後はレクリエーションを行なった。
屋内だったので暑さを凌て快適に過ごせた。子供達と折り紙で何かを作ろうといった企画だったが、思いの外みんなが熱中していたので、動き回っていた午前に比べたら、かなり体が楽だった。
私はトイレに行きたくなり、トイレへと向かった。
女子トイレの隣が男子トイレ、よくある作りだ。用を足しているときに話し声が聞こえた。おそらくトイレのすぐ近くの手洗い場のあたりだろう。
「ーーは、順調か」
「ええ、ーーも、滞りなく、いいカモになってますよ」
佐野さんの声がしたが内容はよく聞き取れなかった。私は少し耳を澄ます。盗み聞きのようで気が進まないが気になるし、外にでて出くわすのが気まずいので立ち去るまでトイレにいた。
「ーーの会合がーーある。ーーでーー」
「ええ、承知しました。目標までーーです」
「くれぐれも注意しろよ」
「わかってます」
そのような会話が聞こえてきた。声がしなくなったので私もトイレから出る。話していた人たちはいなくなっていた。
「茉莉花、大丈夫?お腹痛いの?」
「え、大丈夫だよ」
里見に無用な心配をさせてしまったようだった。
その後も無事に子供達とのレクリエーションは進み、午後4時に終了の時間となった。名残惜しそうにする子供達。
「それじゃあ今日お世話になったみんなに感謝を伝えましょうね」
先生がそういうと子供たちは元気よく一斉に『今日はありがとうございました』といって私たちもそれに応える。
ここに来た時の服装に着替え、帰り支度をする。先輩たちの炊き出し道具を持ちながら駅まで向かう。
「茉莉花ちゃんたち、子供たちのお世話、上手だったね」
佐野さんに褒められて嬉しかった。
「い、いえいえ、佐野さんこそ、あやし方、上手でした」
「そうですよ、先輩たちの方が動き回ってましたし」
私と里見はそう答えた。
そんな雑談を交わしながら帰る途中、どこからか視線を感じて振り返るが、誰か見ているわけでもなかった。
「どしたの、茉莉花?」
「ご、ごめん、何でもない」
私の行動に里見は心配してくれていた。
「なんか今日、調子悪そうだね」
「そ、そんなことないよ」
「何かあったら何でも話してよ、茉莉花ってあんまり自分のこと言わないからさ」
「う、うん、ありがと」
里見と話していたら気づいたら駅に着いていた。ここで解散となる。
先輩たちは電車で移動し、里見も隣駅が最寄りなので帰っていった。
ー午後6時、新宿某所ー
「嗅ぎ回っている奴がいるってのは確かなのか」
「はい、例の探偵がかの事件について、まだ嗅ぎ回ってます」
OBのシンジが発言する。
「防犯カメラの映像のテープが一つなくなっていました。時期、時刻はあの事件の時と一致していました」
幹部の1人が躊躇うことなく答えた。
「消せ、これは命令だ、警察なら何とかできんだろう」
「承知いたしました。適当な理由で吊し上げます」
ー午後8時ー
私は家でテレビを見ていた。夜のニュース番組をながら見していたら聞き馴染みのある名前が耳に聞こえた。テレビのキャスターがある事件について話していた。
「2023年の10月に政治家を狙った殺傷事件が目立ちましたが、その犯人の共犯となる可能性がある人物を警察が公表しました」
その後の人物の名前と顔を見た私は戦慄を覚えた。
「容疑者は
それ以降の話が頭に入ってこなかった。え、あの勝己さんだよね。
信じがたいそのニュースにパニックになっていた。
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