1-13 因果
6月28日 土曜日
今日は、午後から8時間ほどアルバイトがある。朝起きた私は、ドリンクを飲み、トーストを食べ、身支度を少しずつ始める。
午前11時30分、家を出てテリアへと向かった。
「おはよう、ございます。」
「あら、おはよう、今日は長いけど頑張ろうね」
花さんが優しく出迎えてくれる。今日は絵里さんも夕方までの勤務でフル動員していた。
着替えを済ますとレジ晩を絵里さんと変わる。
「お、おはようございます」
「おはよ、変わってくれる、私は休憩行くから」
そういいレジを変わった。営業は10時からだが、絵里さんは仕込みの為に朝8時から働いているそうだ。
今日はとても忙しかった。今までロクな接客をしていないが、一見さんらしき人が大勢来ていた。13時を迎えた頃にはテーブル5席、カウンター席も7割ほど埋まって賑わっていた。
私は花さんから頼まれ、コーヒーや紅茶などのドリンクは淹れて出しながら、お会計を任されていた。
絵里さんは店長と一緒にデザートや軽食を作っていた。
「あら、食材がないわ、ちょっと買い出しに行ってくるわね」
想定を超えた客入りのため、食材を切らしたといい花さん出かけていく。
また1人、お客様が入ってきた。
「いらっしゃいませ、お席にご案内いたします」
「あれ、茉莉花ちゃんだっけ?」
勝己さんだった。
「今日はすごい混んでるね、大丈夫かい?」
「は、はい、何とか」
「頑張ってるね、あそこに座るからコーヒー頼める?」
「かしこまりました」
勝己さんは1席空いていた、2人用のテーブル席に座り、手帳を広げ、何か読んでいる。勝己さんはいつも何か読んでいるが本ではない。手帳や新聞などが多い印象だ。
勝己さんに淹れたてのコーヒーを持っていく。
「お待たせいたしました、ブレンドになります」
「おお、ありがと、ねえ花さんはいない?」
「花さんなら買い出しに行きましたよ」
「そっか、戻ってくるかな」
「さっき出たばかりなのでもうしばらくは出てるかなとは思います」
そういうと「ありがとう」とだけいい、勝己は自分の世界へと入っていった。
私は相変わらずレジ番をしながらドリンク出しを続けていた。
時刻は15時、花さんが戻ってきた。
「混んでて時間かかったわ、茉莉花ちゃん、変わるから休憩行ってきて」
「え、でも花さんは?」
「私はあとでいいのよ、こう見えてもタフだから」
「わ、わかりました」
そう言われ休憩に入る。
シンプルなケチャップベースの味にチーズとバジルがいい感じに絡みつく。
舌鼓してしまう美味しさだ。店長さんと絵里さんはケーキも含め、料理が上手だ。私もいずれやるのだろうかと思うと、少し気が重くなってきた。急に胃が痛くなった気がした。
昼休憩を終えて事務所を出る。絵里さんと入れ替わりで店番をすることになった。
「私、上がるから後よろしく。もう仕込みも終わったし、ぼちぼち店長も帰ると思うけど、人が引いてきたから大丈夫だと思うわ」
「わ、わかりました」
「ケーキ類はあるだけ使って。なくなったら終わりで」
「は、はい、わかりました」
仕事の引き継ぎを終えると、すぐエプロンをとりそのまま帰っていった。
何か用事でもあるのだろうか、急いでいた。
私は言われた通りにレジ番を行いつつコーヒー類の提供に従事した。
お客さんもまばらで、割と手すきな時間も増えてきた。
「今日は頑張ったわね、茉莉花ちゃん、ちょっと休む?」
花さんが声をかけてくれた。私はまだ体力も残っていたので大丈夫ですといい、仕事に戻った。花さんは「少しだけ事務所にいるわ」といい行ってしまった。
ー17時、駅前のカフェー
「おや、絵里ちゃん、来てくれたんだね」
「その言い方、なんかキモいからやめて」
「そう言うなよ、ようやく尻尾が掴めそうなんだからさ」
「話を聞きに来ただけよ」
勝己と絵里は駅近くのカフェで待ち合わせをしていた。
勝己は絵里に封筒を手渡す。中身を見るように促す。
「それは翔くんの姿じゃないか」
絵里は言葉を失った。確かに彼の姿だと思った。
防犯カメラの映像を切り取った写真のようだった。
翔とは絵里の元彼だ。翔は2年前の10月にある事件を追っていた。
その事件に踏み込んだからなのかは不明だが、東京湾の近くで殺害された。現場へ駆けつけた警察の証言では、その時間は封鎖されていたというが、何者かに呼び出されたのか、連れて行かれたのか、死後に運ばれたのか、憶測しか出てこないが、殺されたのは確かだ。だが物的証拠も目撃証拠もないと判断され、いまだに捜査は進んでいない。と言うよりも警察も動いていないように感じ、探偵である勝己は自ら調査していた。
「翔は誰に
「それはわからん、だがあの胡散臭い
「あんたも危険なんじゃ。2年経ってはいるけど、今でも狙われるんじゃ」
「まあ、だとしても、このままでは風化してしまう、俺はジャーナリストじゃないし正義感があるわけでもないが、奴らを野放しにするのは胸糞悪い」
「ありがとう、これ少ないけど」
絵里は勝己に金銭の入った封筒を手渡す。勝己は拒否した。
「いらないよ、翔は俺の弟子でもあるんだ。これは俺の責任でもあるから」
少し話すと勝己と絵里は店を出た。
ー20時、カフェ“テリア“ー
最後のお客様のお会計を済ませ、閉店時間となった。
「お疲れさま、長かったわね、帰ってから晩御飯は作るの?」
「今日は何か買って帰ろうと思います」
「それならこれ持って帰って」
花さんからケーキと手作りのドリアを頂いた。ドリアは店のメニューではないが、試作品として店長さんが帰る前に作っていったらしい。
私はお礼を伝えると、着替えて帰ることにした。花さんと一緒に裏口から出て帰る。
花さんは車で来ているみたいで近くまで送ってもらえることになった。
「茉莉花ちゃんはいい子ね、うちの娘とは全然、違うわ」
花さん夫婦には娘さんがいるのか、気になって聞いてみた。
「あの、それって絵里さんのことですか?」
「え、絵里ちゃんは違うわよ、まあ違うわ」
何か少し歯切れの悪い返答に気になったが花さんが教えてくれた。
「うちの娘は今、A国にいるのよ。英才教育だって周りからは言われるけど、そんなことなくて」
何の話かと思ったが、話を聞くと娘さんはA国にいて国際組織ICPOの一員だという。そんなこと喋ってもいいのかと思ったが黙って聞いていた。
「うっかり喋っちゃったけど周りには留学しているとだけ伝えてるの。言わないでね」
そう釘を刺された、家に近づいたので降ろしてもらった。
挨拶を交わし、家へと帰宅した。
奥井さん夫婦って何者なんだろうかと気になって、お風呂に入りながらずっと考えてしまった。
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