02 ガラス玉

 ――数日前。少年と少女が出会った日。


 照りつける太陽の眩しさに顔を上げては目を細めながら、狐塚アユムがガレキの山の上をひょこひょこと進んでいく。左手にはガラス玉で栓をしたラムネの瓶がしっかりと握られている。


「毎日毎日、この暑さ。嫌になるよなぁ。着いてから飲むつもりだったけど、」


 その場で立ち止まり、ガラス玉を親指で強く押し込んだ。すぽんと気持ちの良い音がして、瓶の底へとガラス玉が沈んでいく。溢れてくる泡を零さないように口をつけて飲む。


「うん。美味い。こういう暑い日はよく冷えたラムネに限るな」


 余程喉が渇いていたのだろう。すぐにラムネを飲み干してしまった。空になった瓶を意味もなく振ってみる。沈んだビー玉が音を立てて跳ねていた。


 満足したのか、それとも単に飽きっぽいだけなのか、振るのを止め、手の力を緩めた。アユムの手から瓶が抜け落ち、ガレキの上を転がっていく。この瓶がガレキへと変わるのも、そう長くはないだろう。


 アユムは再び、照りつける太陽の下を、目的地へと向かって進んでいった。


 ――そして数分後。同じ場所。


 アユムの捨てたラムネの瓶を、色白の華奢な手が拾い上げた。


 背丈の低い黒髪の少女だった。

 まばたきもせず瓶を見つめる黒い瞳。

 四、五秒。

 ゆっくりと一度だけまばたいて、

「これ、何?」

 唇が動くのと同時に首を傾げた。

 よく見てみると何かが入っている。

「これも、何?」

 瓶を振ってみた。

 中に入っている何かが瓶の内壁にぶつかって音を立てた。

「中に入ってるの、欲しいなぁ」

 今度は瓶を逆さまにして振ってみるが少女の思惑に反して、中に入っているものは音を立てるだけで出て来てはくれない。


「……別にいいもん。気にしてないし」


 瓶を元に戻して、左手で支え、右手で瓶の口の方を握る。


「こう、」

 握った手に軽く力を込めた。

「すれば、」

 瓶が割れる。


「ほら、取り出せるし」


 さっきと同じように逆さまにすると、今度は簡単に中に入っているものがちゃんと出てきた。それを手で受け止め、空っぽになった瓶を遠くに向かって投げた。


「あれは……なんかムカついた。だから、いらない」


 気に入ったそれを暫く眺めた後、ワンピースのポケットの中に入れ、前方を見据える。


「アイツ、もっと持ってるのかな」


 呟いたのと同時に少女は歩き出した。

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