01 ガラスの心
「人間の心はさ。ガラスみたいなものなんだってさ。じーさんが言ってた」
突然、そんなことを言い出した少女に少年は足を止めた。
「なんだよ、それ」
振り返りながら茶化す少年の視界にはガラスの破片を空にかざしている少女の姿。
それを見て「こいつ、なにやってんだ」と呆れはしたが、思うだけで口には出さず、少女の返答を待つ。が、反応はない。
言葉を促すか少年が迷っていたが、少女はつまらなさそうにため息をついて、その破片を力いっぱいに遠くに放り投げた。
「おい! 危ないだろ! 人に当たったらどうするんだよ」
「いいの。誰もいないんだから」
「そういう問題じゃないだろ? お前の力はすっげーの。だから加減しないとアレ、遠くに飛んでったから誰かに当たってるかもしれな、」
咎める少年などお構いなしに少女はすたすたと歩きだす。
頭を抱えながら慌てて後を追いかけたのは良いが、その足の速さから小走りになってしまう。
「待てよ、おい、待てってば!」
不意に少女が歩くのをやめた。
待てと言われたからではない。
ただの気まぐれだった。
「わかんない」
またもや唐突。
「え?」
「さっきの話。じーさんが言ってたこと。あたしもよくわかんないの」
少女は自分の足下に目をやり、じっとそれを見ていた。
先ほどのガラスの破片が落ちていた。
たとえ少年が少女に追いついたとしても、
少女が何を見ているのか。
少年は気づかないだろう。
あと少しで少女に追いつく。
だが。
なにがそうさせたのか。
少年は立ち止まり、少女の後ろ姿を見つめていた。
やがて少女はゆっくりと振り返り、その手を差し出した。
「行こう」
少女に駆け寄り、その手をしっかりと握った。
それに嬉しそうな笑みを浮かべ、少年の前を行く少女は、とても、眩しかった。
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