4話


相変わらず街を歩けば注目の的になる2人は、ダンジョンでテリアを稼いだら、まず服を買おうと、口にはしないが心に決めた


「ほえ〜ここがギルドなんだ」


ギルドに到着し、西部劇でよく見るウエスタンドアを押し開き、中へと入って行く


ギルド内は酒場の様な雰囲気で、右手にはバーカウンターとテーブル席があり、何人かの冒険者たちが飲み交わしていた


雅とクリスタルは、左手の受付というボードのあるカウンターへと足を進め、受付のお姉さんに冒険者登録の旨を伝えた


「かしこまりました、ではまず冒険者の説明からさせて頂きますね」


お姉さんの説明によれば

冒険者はS〜Fまでのランクに分かれていて、最初はFからスタートする。

ダンジョンや街の外のフィールドの魔物を倒したり、ギルドクエストをクリアすることでランクが上がるシステムだそうだ


雅にはちんぷんかんぷんだったが、クリスタルが噛み砕いて説明し、なんとか大まかな概要は理解出来た


「それではこちらの申請証に、必要事項をお書きください」


お姉さんに渡された書類に、必要事項を書いていく


受付口で黙々と書いていると


「ひやぁっ!」


クリスタルが小さな悲鳴を上げる


「ど、どうしたんですか?」


クリスタルの方に目をやると、

お尻を抑え、後方で薄ら笑いを浮かべる小太りの男を睨んでいた


「なんのつもりでしょうか?」


「そんな格好しやがって、誘ってんだろ?」


小太りの男は酒瓶を片手にこちらに突っかかってくる、どうやらクリスタルのお尻を触ったらしい


「ちょっとおじさん!私の友達に変なことしないでください」


雅もおじさんに負けじと食い下がった時


「ダウラスさん、そこまでですよ。これ以上問題を起こすようならそれ相応の処置を取らせて頂く」


銀の鎧を身にまとった、恰幅のいい無精髭の男が、小太りのダウラスに忠告する


「ケッ、わあったよ、ったく…どいつもこいつも…」


ダウラスは、ぶつくさと文句を言いながらギルドから退場した


「御二方、先程の失礼どうかお許しくだされ。彼はどうしようもない酔っ払いでして」


深々と頭を下げ謝罪する銀鎧の男


「いえ、貴方から謝られることではありませんので、頭をお上げください」


「ありがとうございます、申し遅れました、私はこのギルドのリーダーを務めている【ブラン】と申します」


またまた頭を深々と下げるブランに、雅とクリスタルも習って深々と頭を下げる


「何か問題があれば私にお伝えください、それでは失礼します」


ひらりと身を翻し、2階へと上がっていく


「すごく丁寧な方でしたね」


「そうですね、ちょっと緊張しちゃいました。それより、お尻大丈夫ですか…?」


「ふふ、大丈夫ですよあれくらい、虫に触られた位のことです」


口調は優しいが、言葉にはほんのり怒りが垣間見える


トラブルはあったものの、申請証を提出した2人は、冒険者の証【ギルドカード】をもらった


「なんだかカッコイイですね」


カードを眺めながら嬉しそうな雅


「ふふ、そうですね、私もなんだかワクワクしてきました」


晴れて冒険者となった2人は、ギルドを出てすぐの洞窟にあるダンジョンへと進んで行った



【アルノデダンジョン】

この世界にある数多のダンジョンの中でも、トップクラスの難易度を誇る


そんなこと知る由もない2人は、ピクニック気分で探索を始めた


「だんじょんって薄気味悪い所ですね…」


「ええ、なんだか異質な雰囲気です」


奥に進む事に暗くなるダンジョン、暗くなる感覚はあるのに、見えなくなることはない独特の現象に戸惑う2人


その時、目の前に2本の大きな牙を生やした、赤いコウモリが姿を現した


「うわっ、大きなコウモリさんですね」


「はい、強力魔物かもしれません、気をつけましょう」


「はい!でもここは任せてください!」


クリスタルの前に立ち、赤コウモリに対峙する


「っ!?雅さん?」


「いきます!みやビーム!!」


ピースにウインクのポーズすると共に、紫色の禍々しいみやビームが放たれ、赤コウモリに直撃し爆散した


「す、すごい攻撃」


あまりの威力に、空いた口が塞がらないクリスタル


「やりました〜!」


立ち上がる砂煙の中から、手を振って笑顔で戻ってくる雅


「お、おかえりなさい雅さん。貴方がマウオを倒した事に、今やっと合点がいきました」


えへへと笑う雅の可愛いさに、思わず頭を撫でるクリスタル


「それと、こんなのが落ちてました」


雅の手には、赤い宝石の様なものが握られていた


「どうやらこれがドロップアイテムのようですね」


「へぇ〜キラキラで綺麗ですね」


赤コウモリからドロップしたアイテムをリュックに収め、さらに奥へと進んでいく


すると、またもや赤コウモリの魔物が現れた


「クリスタルさん、魔物は私が倒しちゃいますから、安心してくださいね」


「ふふふ、雅さんは頼もしいですね。でも、私だってそこそこ強いんですよ?」


微笑むクリスタルは、また新たに現れた赤コウモリに向き合い、両拳を突き出し、左拳をスライドさせる、スライドした部分から水の剣が顕現する


「アクアスラスト!」


剣を赤コウモリに向かって突き出すと、剣先が伸び赤コウモリを襲う


「水の剣?すごい!」


神に近い存在として崇められる泉の精霊の、奇跡の水霊術は、この世界ではとても貴重なものであり、そう易々とお目にかかれるものではない


偶然にも、雅はとんでもない存在を仲間にしていたようだ


「よぉ〜し!このままガンガン行っちゃいましょうー!」


雅の最強スキルと、クリスタルの奇跡の水霊術により、トップクラスの難易度も悠々と進めていく


冒険者のように、魔物にもFからSまでランク付けがされており、【アルノデダンジョン】の魔物はDランクの魔物が多く、本来なりたて冒険者が悠々と進んで行く事など不可能である



ちなみに、泉を襲っていたマウオはAランクに相当するので、難関と言われるこのダンジョンも、2人にとっては何の問題もなかった


「見てください、おっきい扉があります!」


「ほんとですね、中から禍々しい力をひしひしと感じます…今までの敵よりも強力な魔物が居るかもしれませんね」


どうしますか?というクリスタルの問に、行きましょうと力強く答える雅


5mはある巨大な扉を2人がかりで押し開くと、老朽化した鉄扉特有のいやな音が響く


中に入ると、【岩の魔物・ゴーレム】が待ち構えていた


入ってきた扉がひとりでに閉まり、戦わなければ生き残れない的状況が作り出される


「この魔物を倒さない限り、外には出られないということでしょうね」


「そういうことですか、でも私達なら大丈夫です!」


2人は気づいていないが、【アルノデダンジョン】1階層のボスの元へと辿り着いてしまっていた


もちろん、なりたての冒険者がボスを倒すことは愚か、この部屋に辿り着く事すら前代未聞の偉業


無自覚のまま、雅の人生初のボス戦が始まる

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