第15話 カスティーリャ王位継承戦争①

 ポルトガル軍は 1475 年 5 月 10 日にアフォンソ 5 世の指揮のもとカスティーリャ王国に進軍した。



「エライコッチャなのじゃ〜、エライコッチャなのじゃ〜」


 ポルトガル王国の侵攻を知って慌てるイザベルちゃん。


「姫〜走り回らないでくだされ~、姫〜」


 そして、それを追いかけるじい。



 そして、周囲の目は冷たく……、無かった。イザベル派の面々の中では、イザベルちゃんはかなり冷静沈着で、冷徹な頭脳を持つと認識されていたのだった。


 まあ、今は実際にパニック状態になってバタバタと走りまわっているように見えるけど。


「失礼な奴なのじゃ〜。パニックにはなっておらぬのじゃ~。冷静に考えをまとめておるのじゃ〜。エライコッチャなのじゃ〜」


 左様ですか。



 まあ、イザベルちゃんはひとしきり騒ぐと、皆を集める。


「いよいよお考えがまとまりましたでしょうか?」


 一同を代表して、ベルトランさんがイザベルちゃんにおうかがいをたてる。イザベルちゃんの左右には、エドゥアルド・アソーに、ベアトリス・デ・ボバディージャ、アンドレス・カブレラがひかえ。


 イザベルちゃんの前には、ベルトランさんに、大貴族メンドーサ家の当主ディエゴ・メンドーサに、その弟、セビリア大司教ペドロ・ゴンザレス・デ・メンドーサ枢機卿。さらに、ブルゴスの街の支配者フェルナンデス・デ・ベラスコ、カストラバ騎士団の新団長ロペス・デ・パディージャ、サンティアゴ騎士団長であるロドリゴ・マンリケなどがひかえていた。


「うむ。まあ、まずは我が夫の母国、アラゴン王国に援軍を出してもらうのじゃ〜」


「はっ」


 使者として出向くであろう、ベルトランさんは、アラゴン国王との謁見を求める使者を早速送る。


「でじゃ、ポルトガルの進軍経路にある街には、ポルトガル王国に降伏して構わぬと伝えるのじゃ」


「えっ、よろしいのですか?」


「うむ、よろしいのじゃ。命を無駄にすることもなかろうなのじゃ」


「おお、さすがイザベル様。慈悲深いお考えです」


「下方は寝て待てなのじゃ〜」


「はっ」


 と、イザベルちゃん達がやってるうちに、ポルトガル王国軍は進軍を続け、ポルトガルから70kmの距離にある、カスティーリャ王国の南西国境地帯の防衛目的で作られた、イエルテ川岸の都市要塞であるプラセンシアへと到達した。


 プラセンシアには、フアナ王女が立てこもっていた。プラセンシアは王家に対して反抗的な街であるが、この時はフアナ王女を支持。イザベルちゃんに敵対する姿勢をみせたのだった。



 プラセンシアに入ったポルトガル王アフォンソ5世は5月25日のことだった、フアナ王女との結婚を宣言。さらに、自分達がカスティーリャ王国の主権者であるとも宣言したのだった。


 まあ、神聖教教主様の許可は届いておらず、今のところ無許可で叔父と姪が結婚したのだったが。



 こうして、ポルトガル軍はプラセンシアでたっぷりと休息して、再軍備を整えると再び進軍を開始する。



「な、なんじゃと! フランス王国の介入? なぜなのじゃ〜?」


「は、はい、アラゴン王国とフランス王国はイタリアにて敵対関係にあり、アラゴン王国への嫌がらせかと……」


「うぬぬぬぬ、なのじゃ〜。すぐにブルゴーニュ公国とイギリス王国にお手紙なのじゃ〜」


「は、はい、かしこまりました!」



 イザベルちゃんは、フランス王国がカスティーリャ王国継承戦争への介入を宣言すると、急ぎ手をうつ。


 フランス王国と敵対関係にあったブルゴーニュ公国、イギリス王国に連絡すると、フランス王国の出兵への妨害を頼んだのだった。


 そして、実際にイギリス王国、ブルゴーニュ公国の牽制によって、フランス王国は動けなくなってしまったのだった。まあ、一時的ではあったが。



 ポルトガル王アフォンソ5世は、プラセンシアからブルゴスに向かうつもりでアレバロまで行軍した。


 そこでアフォンソ5世は、同盟国であるフランス王ルイ11世が派遣した軍隊と合流出来ると考えていたのだった。しかし、待てど暮らせど来ない。



 プラセンシアとアレバロは、フアナ王女の支持者であるエストゥーニガ家が入り守備を固めていた。


 一方、フェルナンデス・デ・ベラスコが支配するブルゴスの街はイザベルちゃんの支援の為に軍備を増強、守備を固めていた。



「ぬぬぬ、なぜ来ない」


「はい、ブルゴーニュ公国とイギリス王国に妨害されているのだと」


「ならば良い。ポルトガル王国単独で戦ってくれよう。行くぞ!」


「はっ」


 こうして、ポルトガル王国軍は進軍を再開……。しなかった。



 アフォンソ5世はカスティーリャでの支持者が予想よりも少なかったため、計画を変更し、代わりにポルトガルに最も近い地域、特に城の守備隊がイザベルちゃんへの忠誠を宣言したにもかかわらず彼を好意的に受け入れてくれた都市であるトロで支配を強化することを選んだのだった。


 さらに、 サモラやドウロ川下流の他のレオネの村々もアフォンソ5世を受け入れた。まあ、これはイザベルちゃんからの指示によるものだったが、アフォンソ5世はただ正直に受け止めていた。



 で、一方、スペイン中部のカラトラバ騎士団、サンティアゴ騎士団の支配地域である、ラ・マンチャ地方では戦いが始まっていた。


 カラトラバ騎士団長であった、フアナ王女の支持者であるロドリゴ・テレス・ジロンがシウダード・レアルを征服したが、元々は、 同じ騎士団の会計係でありサンティアゴ騎士団長であるロドリゴ・マンリケは、イザベルちゃんのために街を再征服する。



 そして、一旦アラゴン王国へと戻り軍備を整えていた、イザベルちゃんの夫フェルナンド君はトルデシリャスに軍を集中させ、7月15日アフォンソ5世と戦う為に進軍を開始したのだった。


 アラゴン王国の軍勢1万ほどと、カスティーリャ王国の軍勢およそ1万8千。総勢2万8千の大軍勢だった。


「フェルナンド、気を付けて行くのじゃ」


「おお、麗しのイザベル。君に勝利を捧げよう」


「うむ、頼むのじゃ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る