第14話 後継者は誰?
「イザベル様、我が父の葬儀への出席、まことにありがとうございますわ」
「うむ。フアナ殿も唯一の肉親を亡くされてその心わかるのじゃ。妾も、唯一の肉親の弟が亡くなった時は、物凄く悲しかったのじゃ。妾が葬儀を執り行うゆえ、安心して休むのじゃ」
「ありがとうございます、イザベル様。ですが、そういうわけには参りませんわ。精一杯、我が父の葬儀を行わさせて頂きますわ」
なんて話していたが、お互い心の中では、何を考えているのだろうか?
「そんなの決まっておろう。何としても自分が後継者であることをしめすために、葬儀を自分が仕切る事しか考えておらんのじゃ〜」
だそうです。
まあ、それでも、葬儀はカスティーリャ王国最高位のメンドーサ枢機卿の進行で厳かに行われていた。
そして、葬儀を取り仕切ったのは、イザベラちゃんだった。
イザベラちゃんは騒ぐフアン・パチェコをさっさと排除すると、ディエゴ・デ・メンドーサを筆頭とする有力貴族、さらに、ベルトランさんをはじめとする有能な能吏達、さらに式典儀礼に詳しいじいこと、エドゥアルド・アソーがサポートし、つつがなく葬儀は終わったのだった。
誰も悲しむ者はなく、ある意味悲しい葬儀であった。街では、葬儀と称して宴が行われたそうだ。
そして、葬儀が終わるとさっさと、イザベラちゃんはセゴビアに移動。王都であると宣言すると、王位継承の準備に入ったのだった。
慌てたのは、閑散とした元王都トレドにいる、フアナ王女だった。
「何で、私では無いのです。私こそ、お父様、エンリケ王の娘ですわ」
「え〜〜、まったく仰るとおりです」
あっ、生きてたのね。フアン・パチェコさん。
そう、フアナ王女の傍らには、フアン・パチェコさんの姿があった。
それに、
「そう、あんなエセ坊主など……」
そう、かつてのカスティーリャ王国最高位の聖職者だった、トレド大司教アルフォンソ・カリーリョさんが、イザベラちゃんに邪険にされた恨みからフアナ王女の味方となっていた。
他にも、ポルトガルとナバラ人の先祖に隣接する土地を持つエストゥーニガ家。 カディス侯爵である、ロドリゴ・ポンセ・デ・レオンや、 そしてカラトラバ騎士団の団長のロドリゴ・テレス・ジロンもフアナ王女の味方についていた。ただし、カストラバ騎士団自体はいない。
カストラバ騎士団は、イザベラちゃんの味方についていたのだった。団長がフアナ王女に味方すると言うと、団員はでは、我々はイザベラ様のお味方しますと、さっさと団長を置いて移動。ロペス・デ・パディージャを新たな団長としたのだった。ちょっと可愛そうなジロン団長だった。
「もう、こうなればポルトガル王を頼るしかないかと」
「叔父上か?」
「はい」
そう、フアナ王女は王位継承を優位にするためにポルトガルと結びつきを強めようとしていた。ポルトガル王国は、レコンキスタを完了し、いち早く外海へと漕ぎ出し、多くの富を得て、国力を増大させていた。
ポルトガル王アフォンソ5世。当時、アフォンソ5世は、妃に先立たれ独身ではあった。そこで、フアナ王女は、自分がアフォンソ5世と結婚し、アフォンソ5世の救援を得て、カスティーリャ王になろうと考えたのだった。
フアン・パチェコは、急ぎポルトガル王国の王都リスボンへと向かったのだった。
「……というわけなのですが、いかがでございますでしょうか?」
フアン・パチェコの話を聞き、玉座で首をひねる。アフォンソ5世。確かに魅力的な話ではあった。
しかし……。
「余と、フアナは叔父と姪の関係なのだがな……」
そう、フアナ王女が亡くなったカスティーリャ王エンリケ4世の血をひいていてもいなくても、フアナ王女とポルトガル王アフォンソ5世は姪と叔父の関係なのだった。
アフォンソ5世の妹が追放されたフアナ王女の母親フアナなのだから。まあ、かなりの近親婚。教会から認められる事は難しかった。
しかし。
「教主様の許可があればたとえ、叔父と姪の結婚であっても可能かと」
「ふむ」
アフォンソ5世は、フアン・パチェコを見る。
「教主様の許可を頂く為に、トレド大司教アルフォンソ・カリーリョ殿がローマに向かわれました」
「ふむ」
アフォンソ5世は、ニヤリと笑った。
43歳の叔父と14歳の姪との結婚でも、神聖教教主の許可を取得すれば可能だったのだ。
「では、フアナの手助けに行こうかの。イザベルとかいうカスティーリャ王を語る小娘を廃除する為にな」
「あ、ありがとうございます」
フアン・パチェコは、頭を床にすり付けるように、感謝し頭を下げる。
これで、余がカスティーリャ、ポルトガル両王か。悪くない。
アフォンソ5世は、この結婚でカスティーリャ・ポルトガルの両国王になれると乗り気になり、王太子ジョアンも同意したので、2万の兵を率いてカスティーリャへ侵攻したのだった。王位継承戦争が始まる。
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