第13話 戦いの序曲とエンリケ4世の死

 エンリケ4世。


 イベリア半島に残るイスラーム勢力は、イベリア半島南部のグラナダ王国のみだった。エンリケ4世はグラナダを攻撃するが、失敗。


 戦果をあげることができず消耗戦になってしまった事により、疲弊した貴族や民衆からは不満の声があがり、反乱までに発展。


 国王としては人気も、そして権勢もない国王だった。



 そして、国王派と反国王派の争いの中。反国王派の首魁フアン・パチェコがエンリケ4世と和解。国王派に復帰すると、ベルトランが失脚しフアン・パチェコが権力を手にする。



「権力を手にして良い男じゃないのじゃ〜。あっちへふらふら〜、こっちへふらふらと〜。けしからんのじゃ〜」


 イザベルちゃんじゃないけど、その通りだった。



 で、一方のイザベルちゃんは、イザベル派の首魁だった、トレド大司教区の大司教アルフォンソ・カリーリョさんを追放。


 というか、自分の言う事を聞くと思っていたイザベルちゃんのわがままっぷりに振り回され、疲れ果て帰ってしまった。というのが真実だった。



 そして、代わってやってきたのが、ベルトランさんだった。


「イザベル様、忠誠を誓わせて頂きます」


「優秀な人間は好きなのじゃ。しかし、良いのかえ? 娘であるフアナ王女に仕えなくて」


 すると、フッ、と苦笑いしつつ。


「イザベル様は、私がそのような事をする男に見えますでしょうか?」


 そう、フアナ王女はベルトランさんの娘だと噂されていた。イザベルちゃんはその事を言ったのだった。


 しかし、ベルトランさんは、逆にイザベルちゃんに質問を投げかけたのだった。


「見えないのじゃ。少なくとも、仕えるべき主君の妻に手を出すような男には見えないのじゃ〜。まあ、かなりのイケオジじゃがな」


「ハハハハ、御慧眼おそれいります」



 フアナ王女が、ベルトランさんの娘だと噂を流したのは、フアン・パチェコさんだった。


 しかし、ベルトランさんはそういう男ではないとイザベルちゃんは言ったのだった。


 だけど、女性に興味がないだろう国王と、不倫を繰り返す王妃。少なくともフアナ王女は、エンリケ4世の娘ではないとの認識ではあった。


 誰の娘だろうね~?



「でだ、その優秀なお主に頼みがあるのじゃが」


「はい、何なりとお申し付けください」


「うむ。外交に才のある人間が不足しておっての〜。難儀しておったのじゃ。でじゃ、イタリアに行ってたもれ」


「イタリアでございますか?」


「うむ、神聖教の総本山じゃ」


「ですが、その神聖教の総本山は腐っていると聞き及びますが……」


「たればこそじゃ。奴らにとって心地よい言葉を囁やけば、何でもしてくれようぞ」


「う〜む。恐ろしいお方ですな~」


「うん? 何がじゃ? 妾は、恐ろしくないのじゃ〜」


「かしこまりました。このベルトラン、イザベル様のご期待に応えるよう努力致します」


「うむ。頑張ってくれなのじゃ〜」



 で、このベルトランさん。イザベルちゃんの予想を超えた結果をもとらす事になった。


 神聖教内で有力者だった。元はアラゴン出身のイタリア貴族ボルジア家のロドリゴ・ボルジアを抱き込むと、このロドリゴ・ボルジアが暗躍。


 そして、1473年カスティーリャ王国を訪れると、カスティーリャ王国屈指の大貴族。メンドーサ家に接触する。


 ロドリゴはメンドーサ家の当主ディエゴの弟ペドロ・ゴンザレス・デ・メンドーサと会い密約をかわす。


 メンドーサ家がイサベルの味方になるかわりに、 教皇シクストス4世はペドロを枢機卿に昇進させ、セビリアの大司教に任命する。


 トレド大司教アルフォンソ・カリーリョさんを越える、カスティーリャ王国の最高位の聖職者となる。



 本当にあくどい。ではなくて、頭の良いイザベルちゃんだった。


「妾が、命じたことじゃないのじゃ〜!」



 メンドーサ家はイザベルちゃんに忠誠を誓う。これで、ほとんどの大貴族はイザベルちゃん派になったのだった。


「これで、余計な戦などせずにすむのじゃ。良くやったのじゃ、ベルトラン褒めてつかわすのじゃ〜」


「はっ、有難き幸せ!」



 ベルトランさんを始めとする優秀な政治家達、そして、メンドーサ家を始めとする有力貴族。そして、じい始めとする経験豊富な騎士。これらすべてがイザベルちゃんのいるセゴビアに集結していた。エンリケ4世の王宮のあるトレドは閑散としていたそうだ。



 これで、エンリケ4世。カスティーリャ王国の国王陛下が亡くなっても、スムーズに王位継承がされるはずだった。


 まあ。エンリケ4世や、フアン・パチェコさん達は認めてなかったが、カスティーリャ王国においてのフアナ王女の支持基盤は無いに等しい。諦めるしかないと思われた。





「何、死んだじゃと?」


「姫様」


 背後にいた、じいが注意をする。


「オホンなのじゃ。何、国王陛下が崩御されたじゃと〜」


「はい。いかがされますでしょうか?」


「もちろん……」


「もちろん……?」


「お祝いなのじゃ〜」


「姫様!」


「冗談なのじゃ。すぐに、トレドに向かうのじゃ〜。国王陛下のご葬儀を行うのじゃ」


「はっ!」



 1474年の事だった。エンリケ4世が崩御する。

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