第11話 わがまま姫の日常なのじゃ〜? 〜中編〜

「でだ、このバカラオ・アル・ピルピルとは何なのじゃ?」


「はい? ああ、ええと」


 マジュンゴは、じいに水を渡し、心配そうに見ていたが、イザベルちゃんに問いかけられて、慌てて答える。


「バカラオ、ポルトガル王国より運ばれて来た干し鱈を、ニンニクと唐辛子をオリーブオイルに入れて一緒に煮たものです」


 まあ、要するに干し鱈のアヒージョだった。ちなみに、ピルピルはオリーブオイルのはねる音だそうだ。


「なるほどなのじゃ、美味なのじゃ〜。それと、これは何なのじゃ?」


「えっ、うちのハウスワインの白ですが……」


「うむ、これも美味なのじゃ。軽くさっぱりしておるが、ちょっと甘くフルーティーで味はしっかりとある。若干、余韻は少ないがの〜」


「はあ、左様ですか」


 イザベルちゃんが普段飲むワインは高級ワイン。イザベルちゃんのお口には、軽めで甘いワインがあったようだった。


「ふん、すまんの〜、貧乏舌で」


 えっ、そんな事言ってませんが。



「まあ、良いのじゃ。でじゃ、次の料理を頼むのじゃ〜」


「は、はい、かしこまりました」


 お店の主人は慌てて厨房に行く。


 そして、ようやくダメージから回復したじいが席に戻る。


「ふぇ、ふぇめ、じゅこうべすじょ〜」


「ん? 何を言っておるのじゃ、じい。ちゃんと、喋らぬとわからぬのじゃ〜」


「うう」


 じいは諦めて、水を口に含む。



 イザベルちゃんは、ガブッとワインを飲むと。


「おかわりなのじゃ〜」


「は、はい」


 慌てて厨房から飛び出してくるマジュンゴ。


「あの、同じものでよろしいでしょうか?」


「よろしいのじゃ」


「かしこまりました」


 マジュンゴは慌てて厨房に行くと、新しいワインを入れて持ってくる。


 それをグビッと飲む、イザベルちゃん。


「あほ〜、姫。しょのしょんなグビグビ飲ましぇますと、ひょっぱらってしまいなすじょ」


「じい、あほ〜とは、無礼なのじゃ〜」


「いやっ、姫さん、多分、じいさんは、あの〜って呼びかけただけだと思うぜ」


「そうなのか?」


 コクコク。


「うむ、ならば許そう。それでじゃ。次の料理はまだかの〜?」


「はいはい、ただいま」


 そう言って、マジュンゴは厨房から飛び出してくる。手には湯気のたっている卵焼きが2つあった。


「はい、ジャガイモとキノコとほうれん草とパンチェッタのトルティージャね〜」


 熱々に見えるその料理を見てイザベルちゃんは目を輝かし、じいの目には恐怖が宿る。


「トルティージャとは何なのじゃ?」


「はい、遠くペルシャの料理です。それをアレンジして、パンチェッタやキノコで味を出し、ジャガイモとほうれん草で食感や風味を出しております」


「うむ。美味しそうなのじゃ〜。ふ〜、ふ〜、ふ〜、なのじゃ〜、ふ〜」


 イザベルちゃんは念入りに冷ますと。


「じい、あ〜ん、なのじゃ〜」


「へっ? はい、かしこまりました。あ〜ん」


 先ほどあれだけの目に合わされておきながら、忠臣であるエドゥアルド・アソーは口を開ける。


 すると、イザベルちゃんはじいの口へとトルティージャを切って放り込む。


「もぐもぐ、うむ。美味しいですな~。キノコが良い味ですし、卵焼き全体にこう良い味が広がって……」


「じい、なんともないのかえ?」


「へっ? はい、なんともありませんが」


「良かったのじゃ。毒は入っておらんようだの」


「はい?」


 どうやら、イザベルちゃんは毒見役にじいを使っているようだった。


「ふ〜、ふ〜、なのじゃ〜」


 イザベルちゃんは、今度は自分の口へと入れる。


「もぐもぐ、うむ。美味なのじゃ〜〜!」


「ありがとうございます」


「うむ、褒めてつかわすぞ。キノコの味とパンチェッタの味が卵とジャガイモに包まれ優しい味が、口の中に広がるのじゃ〜」


「ありがとうございます」


「うむ、でだ、このキノコはなんのキノコなのじゃ?」


 すると、常連さんの目がマジュンゴに集中する。どうやら、常連さん達もなんのキノコか知らなかったようだった。


「さあ? 山で適当に採ってきたキノコですので……」


「な、な、なんじゃと〜、そんな物を人に食させておるのか、お主は?」


 ちょっと怒り気味にイザベルちゃんが言うが。


「いえっ、ちゃんと常連さん達に食べさせて大丈夫だったから出しています。そんなひどいものは使ってませんよ!」


「そうか、ならば良いのじゃ」


「良くねえよ!」


 常連さん達が立ち上がって抗議する。


「本当に面白い店じゃの〜」


 イザベルちゃんはご機嫌だった。


「ワイン、おかわりなのじゃ〜。今度は、赤なのじゃ」


「はいはい、ただいま」


「姫〜、あんまり飲みすぎますと……」


 ようやくまともに喋れるようになったじいがイザベルちゃんに注意するが。


「大丈夫なのじゃ〜。駄目だったら、じいが背負って帰るのじゃ〜」


「姫様〜」


 じいは複雑な気持ちになった。イザベルちゃんは結構重いようだった。


「むっ、デブではないのじゃ〜」


「いえっ、決して重いわけではなく……」


「では、何なのじゃ?」


「え〜と……」


 じいの目が泳ぐ。金属製の鎧着てさらに、人一人背負うのは辛いんですよ~。だそうだ。


「妾は軽いので大丈夫なのじゃ〜」


 だそうです。頑張ってね、じい。

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