第7話 イザベルちゃんの結婚①

 1468年9月18日。エンリケ4世と反エンリケ派との間で、「キサンドの協定」が結ばれる事になった。


 この協定ではイサベルがエンリケ4世の後継者であること。イサベルの結婚はエンリケ4世の承認が必要なことが書かれていたのです。


 しかし……。


「なぜ、そちらの言う事を聞かなければなるぬのじゃ? 妾は嫌なのじゃ」


「ですが、国王陛下が特別の慈愛をもって、イザベル様を次の王位継承者へと言う事にされた、その条件ですので……」


「何が慈愛じゃ、陛下には自愛しかないわ」


「おっ、さすが姫様、慈愛と自愛をかけて……」


「うるさいのじゃ、じい」


 反エンリケ派と、イザベルちゃんの両方から睨まれ、じいこと、エドゥアルド・アソーは黙る。


 まあ、イザベルちゃんの方は、頬がピンク色になっていた。ただ単に、じいに解説され、恥ずかしくなったようだった。



「でじゃ、おぬし等が勝手に決めてきた条件じゃろ。なぜ、妾が守らぬといけぬのじゃ?」


「ですから、国王陛下の慈愛……。イザベル様の王位継承を認めるかわりとしての条件ですので……」


「ふ〜ん。まあ、妾は元々アルフォンソを陛下の王位継承者へと陛下と話をつけておったのじゃ。それを、邪魔したのは、おぬし等であろう」


「そ、それは、アルフォンソ様こそ、今の時代の国王陛下にふさわしい方だと思い……」


「本当かの〜、妾には、自分達が、王宮に戻り、権力を握りたいだけのように見えたがの〜。操り人形を使っての」


「そ、そのような事は、ありません」


 図星をつかれて慌てる反エンリケ派の面々だったが、誰の目から見ても分かりきった事で、なぜ慌てるのじゃ? と思うイザベルちゃんだった。



「そ、そなた等が、アルフォンソを担ぎ出さなければ、アルフォンソだって……」


「姫様、さすがに、それは……」


 じいが、イザベルちゃんにそう声をかけると。


「すまんのじゃ、じい」


「いえっ」


 まあ、謝るべき相手は、私ではないと思うのだけど。と思うじいだったが、素直に謝ったイザベルちゃんに、ちょっとびっくりする。



 反エンリケ派の面々は、イザベルちゃんの反応が思わしくないと感じ、席を立つ。


「イザベル様、くれぐれもご自重ください」


 そう言って、部屋から出て行った。



「アンドレス」


「はっ」


「姉上と共に、反エンリケ派の面々のうち使えると思う者を勧誘せえ」


「はっ」


「それに、妾の軍の指揮権をお主に渡す」


「はっ、ですが……」


 アンドレスは、じいの方をチラチラと見る。じいの方が、階級でも軍歴でも戦果でも遥かに上なのだ。


「じいには、妾と共にアラゴン王国に行ってもらうのじゃ」


「えっ、アラゴン王国ですか?」


 じいが、イザベルちゃんに、そう訊ねると。


「御義父様に、ご挨拶をするのじゃ〜」


「えっ!」





 こうして、イザベルちゃんとじいは、アラゴン王国の王都サラゴサにあるアルハフェリア宮殿へと向かう。


「美しいのじゃ〜」


「ええ、本当に」


 玉座の間に通され、天井を見上げ惚ける、イザベルちゃんと、じいの二人。



 門の外は、武骨な中世の城という感じだったのに、内部の宮殿は美しい真っ白な柱に、柱上部の美しい円形を使ったデザインと、花などの装飾。


 さらに、玉座に入ると、綺麗に、左右対称のシンメトリーな部屋に美しい天井の装飾と、二人は圧倒されていた。


 イスラーム建築の粋を集めた見事な宮殿を、奪って使っているのだ。



「ハハハハ、いかがかな、我が王宮は?」


「とても、美しいのじゃ〜」


「ですね~」


 いつの間にか玉座には、アラゴン王国国王フアン2世がいた。強権で豪快な王という評判だった。


 その強権的な政治で次々と反乱が起こっていたが、その強権的な政治力と軍事力でねじ伏せていた。そんなフアン2世も、御歳71歳。王太子フェルナンドは、この時16歳であった。ちなみに、イザベルちゃんは17歳。


 ちなみに、フェルナンドの上にも先妻との間に兄がいたカルロスという名だったが、父王に対して反逆し投獄され、その後解放されたが、バルセロナで1461年40歳で亡くなっていた。



「でだ、カスティーリャ王国のお姫様がわしに何用かな?」


 フアン2世が、イザベルちゃんを見つめ訊ねる。


 すると、イザベルちゃんは物怖じせず、まっすぐフアン2世を見つめると、


「妾は、王太子フェルナンド様と結婚したいのじゃ」


 すると、フアン2世は一瞬びっくりした顔をしたが。


「ハハハハ、そうかそうか、良いぞ。頭の良い姫君じゃ。それに、わしも、カスティーリャ王国との関係性を密にしたいと思っておったのじゃ。わしもカスティーリャ王国生まれだしな」


 そう、フアン2世の父はカスティーリャ王国の王族であり、自分もカスティーリャ王国生まれだった。その事を、フアン2世は言っているのだ。


 だが、イザベルの言い分はちょっと違った。


「これからは、海の時代なのじゃ。シチリア王国と地中海を支配するアラゴン王国と、外海に出るカスティーリャ王国。組むのは当然なのじゃ〜。それに、フェルナンドはイケメンなのじゃ〜」


「ハハハハ、そうかそうか、計算高い姫君じゃの〜。良いぞ、良いぞ。好きにせい。何かあったら、わしが後見してやるぞい。ハハハハ」


 こうして、イザベルちゃんと、フェルナンド君の結婚は決まったのだった。

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