第5話 アルフォンソの死とイザベル
その戦いのしばらくの後だった。
アルフォンソ君が倒れる。イザベルちゃんは慌てて、カスティーリャ王国に戻ると、アルフォンソ君のいるマドリードへと入る。
ちなみに、カスティーリャ王国はあまり王都を決めず盛んに移動していた。
今も、アルフォンソ君達がマドリードに入城すると、エンリケ4世はトレドへと移動して王都と呼んで暮らしていた。
そのマドリード郊外にある広大な森の中のエル・パルド宮にてアルフォンソ君は療養していた。
「アルフォンソ、大丈夫なのか?」
「あ、姉上……。だ、大丈夫です」
アルフォンソ君は、元々病弱だったが、今はさらに痩せて顔は青白く、とても健康な人には見えなかった。
「大丈夫じゃなさそうじゃの〜。まあ、今はゆっくり休むのじゃ」
「はい」
アルフォンソ君が再び眠りにつくと、イザベルちゃんは、エル・パルド宮の自室に信頼する人を呼ぶ。
「姉上、アンドレス。アルフォンソは本当に病なのじゃろうか?」
「はい、イザベル様に言われて我々が常にお側におりましたゆえ、毒によるものではありません」
「そうかえ」
毒によるものではありません。そう、アルフォンソ君は、一度毒殺されかけた事があるのだ。
犯人はフアナ王妃。
男子であり王位継承権もあり、自分の娘が王位継承出来ないのではと思っての犯行のようだった。
この事件後、さすがのエンリケ4世も王妃を遠ざけ、王妃が愛人を囲うとなったのだった。
そして、離縁され追放されるという事になった。
まあ、それよりもだ。イザベルちゃん達の方に目を向ける。
「あまり気を落とさず、アルフォンソ様は大丈夫ですよ」
「そうじゃと良いのじゃがの〜」
珍しく気落ちして落ち込むイザベルちゃんを優しく慰める姉上と呼ばれた女性と、アンドレスと呼ばれた男性。
もちろん本当の姉ではない。名は、ベアトリス・デ・ボバディージャといった。ボバディージャ家は、アルバロの領主であった。そうイザベルちゃん達が幽閉されていた街だった。
10歳ほど年上のベアトリスさんは、イザベルちゃんの良き遊び相手であり、相談相手だったのだ。そして、そのまま、イザベルちゃんの側近となっていたが、イザベルちゃんの頼みで、アルフォンソ君の侍女となりサポートしていた。
一方のアンドレスさんは、アンドレス・カブレラという名で、エンリケ4世の側近だったのだが、幼いイザベルちゃんとアルフォンソ君を幽閉する事に激怒、エンリケ4世のもとを離れ、イザベルちゃん、アルフォンソ君の執事として働いていたのだ。
じい共々、イザベルちゃん達の監視で派遣されたのではないかと疑われていたが、じい共々、最初はどうか知れないが、今や、イザベルちゃんに絶対的な忠誠心を持っていた。
そして、アンドレスさんと、ベアトリスさんは、昨年結婚もしていた。ベアトリスさんのお腹は大きくなっていた。
「丈夫で強い子が生まれると良いのじゃ〜」
「ありがとうございます、イザベル様」
この後も、イザベルちゃんに、ベアトリスさん、アンドレスさんにじいによる手厚い看病もあったのだが、アルフォンソ君は、日に日に弱っていき。1468年7月5日の事だった。天に召される、わずか14歳の一生だった。
哀しみに暮れるイザベルちゃん。その横で彼女を慰める。いつの間にかカスティーリャ王国にやってきた、アラゴンの王子フェルナンド君。
「そのように嘆き悲しまれると、アルフォンソ君も安心して神のみもとに、行けませんよ」
「でも、悲しいのじゃ〜、妾は天涯孤独になってしまったのじゃ〜」
いや、イザベルちゃんのお母さんは生きておられる。まあ、精神を病んでしまっておられるが。
「そんな事はありません。あなたの周囲には家族のように、あなたをあたたかく見つめる方々がおられます。それに私も……。このフェルナンドがおります」
「そうじゃな、ベアトリスにアンドレスがおった」
「あの〜姫様、一応私も入れて頂けるとありがたいのですが~」
「じいもか? う〜ん、考えておく」
「姫様〜」
少し明るさの戻ったイザベルちゃん。
そして、
「そうじゃな、泣いてばかりではアルフォンソも安心出来んのじゃな。そうじゃ、安心せえ、アルフォンソ。妾にはフェルナンドがおる」
「お〜、嬉しいお言葉ですイザベル」
「愛しておるフェルナンド」
「私も愛しておりますイザベル」
イザベルちゃんと、フェルナンド君が手をつなぎ、見つめ合う。それをあたたかく見つめる、ベアトリスに、アンドレスにじいだった。
「まあ、姫様が元気になられればそれで良い」
イザベルちゃんの悲しみの中。さらに嘆き悲しんだのが、反エンリケ派であった。オルメドの戦いを優勢に終え、エンリケ4世に対して優位な条件で講和したというのにという感じだった。
「こうなっては致し方ない。イザベル様を王位継承者として担ぎ上げ……」
「あのわがまま姫をか?」
「仕方あるまい他に誰がいる」
「確かに」
「誰の子かもわからぬ王女など支持できまい」
「そうだな」
という事になった。
が、
「妾は嫌なのじゃ〜、馬鹿者共に担がれたくないのじゃ〜!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます