第4話 イザベルとフェルナンド
「ですが、私との出会いを画策して、アラゴン王国と同盟を考えておられたのですか?」
「な、なんの話なのじゃ?」
「姫様、動揺して話し方がもとに……」
「な、じい、黙っておるのじゃ」
「ハハハ、大丈夫ですよ。普通に話されて下さい」
「わ、わ、わ、わかったのじゃ」
「ハハハ、落ち着いて、落ち着いて」
「スーハースーハー。ふ〜、落ち着いたのじゃ。いつから、わかっておったのじゃ?」
「そうですね〜、最初からですかね。頭の良いという噂のあなただったら、ポルトガル国王との結婚を画策するエンリケ王と違い、アラゴン王国というか、私に接触してくるかな〜? と。ですが……」
「ですが?」
「馬を射られるとは思いませんでした」
「申し訳ないのじゃ〜、許して欲しいのじゃ〜、動物愛護団体に訴えないで欲しいのじゃ〜」
「はい?」
この時代に動物愛護団体はない。戦場で馬を射るのは当たり前の世界。
「うるさいのじゃ」
「はい?」
「なんでもないのじゃ」
「はあ」
「では、分かっていて、なんで妾と楽しくおしゃべりしたのじゃ?」
「ですから、私は頭が良いと言われている、あなたと会って話してみたかったのですよ。そして、自分の頭の中に描いていたままでした」
「フェルナンド様の言う通り、外見だけは良いのですがね~」
「じい、余計なお世話なのじゃ」
「も、申し訳ありません」
「ハハハ、アソー殿。外見ではありませんよ。失礼ながら、中身ですよ」
中身? わがままで気まぐれ、そして、突拍子もない行動する姫様の中身?
じいこと、スペインの名門アソー家出身の騎士エドゥアルド・アソーは、何を言ってるんだこの人と思いながら、フェルナンド君の話を聞いている。
「はあ」
「じい、なんじゃ、なんか文句があるのかえ?」
「い、いいえ、何も」
「ハハハ、頭が良いから周囲の人には突拍子もなく見えますが、考えがあっての行動なのですよ。そして、直情的ではありますが、自分に対して素直。裏表の無い性格と言えるのではないでしょうか」
ええと、それはちょっと違うな~。珍しく自分の行動を振り返って反省するイザベルちゃんだった。今後はちゃんと考えてから行動しよう。と、心に誓ったのだった。
だけど、これだけ褒められると悪い気はしなかった。打算で近づいたのだが、頭も良いし、顔も良いし、それに何より自分の事を、理解しようとしてくれている。心がトキメキはじめている自分を感じたのだった。
「妾は、このままで良いのかの〜?」
「いいえ……」
「ええ、あなたはあるがままのイザベル様で居て下さい」
イザベルちゃんの言葉を否定するじいの言葉を打ち消して、フェルナンド君は肯定する。というわけで、これ以降もイザベルちゃんのわがまま?は続くのだった。
「そうか、分かったのじゃ。では、妾はフェルナンドの事が好きじゃ。誰に何を言われても結婚するのじゃ」
「はい、私も、イザベルの事が好きです。例えどんな障害があろうとも、あなたと共に歩いて行きたいと思います」
「フェルナンド」
「イザベル」
手を取り見つめ合う二人。
の横でため息をつくじい。
「はあ。じいの気苦労の種が増えそうですよ~」
まあ、こんな感じで、イザベルちゃんとフェルナンド君がイチャイチャしていた頃。
「イチャイチャはしてないのじゃ〜、清い交際なのじゃ〜、それにイチャイチャなどと古臭いのじゃ〜」
大変失礼しました。
では、そんな頃。カスティーリャ王国では、内乱状態だけでなく実際戦いが起こっていました。
一方はエンリケ4世派、もう一方はアルフォンソ君を王位につけようという反エンリケ派。
で、エンリケ派として実質的な中心人物は、エンリケ4世の王妃だったフアナ王妃の愛人と言われたベルトラン・デ・ラ・クエバだった。
このベルトランさんは、フアナ王妃の愛人だの、フアナ王女はベルトランの子だの言われながら、エンリケ4世に忠誠を示し、一方のエンリケ4世も、このベルトランさんを信頼し、政治を任せていた。
そして、一方の反エンリケ派の中心人物はというと、フアン・パチェコという人物だった。このフアン・パチェコさんは、ポルトガルの貴族だったが、親と共にポルトガルを追放され、カスティーリャ王国にてエンリケ4世の幼なじみとして育ち、そのまま、エンリケ4世の側近となっていたが、ベルトランさんと対立、宮廷から追放されると、反エンリケ派の首魁となったのであった。
ちなみに、ベルトランさんがフアナ王女の親だという噂は、フアンパチェコさんがたてたものだった。
で、その両軍がついに激突する。
1467年8月。フアン・パチェコ達貴族連盟はオルメドでエンリケ4世の軍と激突する。第ニ次オルメドの戦いだった。
で、一応優勢で戦いを終えたのは、反エンリケ派だった。この戦いでは決定的な勝利をおさめることはできなかったが、勝利を宣言する。
そして、戦いのあと、エンリケ4世はアルフォンソを後継者として再び認めることとなった。さらに、フアナ王女は王位継承権を奪われ、中立だった大貴族メンドーサ家に預けられることになる。
そして、反エンリケ派のトップである、フアン・パチェコはサンティアゴ騎士団長に就任する事になったのだった。で、実質的勝利に湧く反エンリケ派だったが、相変わらずエンリケ4世のベルトランさんの寵愛は続き、フアン・パチェコさんが政治の表舞台に戻る事は出来なかった。
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