第3話 馬鹿ばかりなのじゃ〜

 エンリケ4世の王妃フアナは、司教フォンセカの甥ペドロ・デ・カスティーリャ・イ・フォンセカの元へ走り、彼の子供を2人生んだ。


 このため、エンリケ4世は彼女も離縁したが、正嫡かどうかは不問のままフアナ・ラ・ベルトラネーハを自身の一人娘とした。



 そして、アルフォンソ君が、反エンリケ派に取り込まれると、フアナを後継者に指名し、カスティーリャ貴族に女王として仕えるよう命じたのだった。


 この決定に異を唱える貴族は多く、アルフォンソ君の支持者が増える事となったのだった。



 一方、反エンリケ派はというと、エンリケ4世の人形を裁判にかけて廃位しアルフォンソが王だと宣言した「アビラの茶番劇」が行われた。


 アルフォンソを推す貴族は有力者ばかりであったため、カスティーリャ王国は内乱状態になった。



 で、イザベルちゃんはというと。その両方に呆れ果て。


「馬鹿ばかりなのじゃ〜、相手出来ないのじゃ〜」


 となった。


 まあ、そうでしょうね~。



 不貞腐れたイザベルちゃんは、引きこもりになる。


 わけはなく、そっと反エンリケ派のところを離れて、ポルトガル王国、そして、アラゴン=カタルーニャ王国に旅をしていたのだった。



「おう、イケメンなのじゃ〜、妾はあれと結婚するのじゃ〜」


「ですが、国王陛下はポルトガル王と……」


「妾は、干からびたチーズは嫌いなのじゃ~。妾がポルトガル王と結婚して、誰の子か分からん女は、ポルトガル王の王太子と結婚とか、何を考えておるのじゃ〜」



 そう、カスティーリャ国王エンリケ4世は、政略結婚を考え、王妃が亡くなってから20年近く妻帯していないポルトガル王アフォンソ5世との結婚を画策。さらにポルトガル王太子ジョアンとフアナ王女を結婚させ、ポルトガルと強い結びつきを得ようとしていたのだった。



「プフッ、大変ですね~、姫も」


「何を笑っとるのじゃ、じい」


「も、申し訳ありません」


「まあ、良いのじゃ」



 イザベルちゃんが目に止めたのは、アラゴン=カタルーニャ王国の王太子フェルナンドであった。


 父はアラゴン国王フアン2世、母は2番目の妃であるカスティーリャ貴族の娘フアナ・エンリケスであった。


 異母兄にビアナ公カルロス、異母姉にブランカ(カスティーリャ王エンリケ4世の元王妃)とナバラ女王レオノール、同母妹にフアナ(ナポリ王フェルディナンド1世の王妃)がいた。


 54歳のフアン2世と27歳の後妻フアナ・エンリケスの間に生まれ、フアナにとっては第1子であった。1461年、フェルナンドが9歳のときに異母兄カルロスが死去し、アラゴンの王太子となっていたのであった。



「妾は、あの者と結婚するのじゃ」


「ですが、どうやって?」


「将を射んとせば先ず馬を射よじゃ」


「なるほど。フェルナンド様の周辺で……」


 じいが、そこまで言った時だった。


 ビュン!


「えっ?」


「危ないですわ~!」


「うわっ!」


 ドウッ!



 イザベルちゃんの射った矢は、狙い過たず、フェルナンド君の馬に当り、馬はドウッと倒れ、フェルナンド君は地面に放り出される。すると、


「大丈夫でございますか〜」


「えっ?」


 呆然とするじいの目の前で、キャピキャピと駆け出して行く、イザベルちゃん。


「いやっ、さすがにそれは……」


「痛ててて、はい、大丈夫です」


「良かったです〜。誰かが、あなたを狙って矢をいったのを見ていたのですが、声をかけるのが精一杯でして……」


「ああ、あなたでしたか、あなたのお声が無ければ危ないところでした。あなたは命の恩人です」


「良かったですわ~」


「もしよろしければ、お名前を教えて頂きたい。美しい方よ」


 確かに黙っていればイザベルちゃんは美しかった。黙っていれば。


「うるさいのじゃ」


「はい? どうかされましたか?」


「いいえ、なんでもありません」


 さて、気を取り直して。


「まあ、美しいなどと恥ずかしい。私の名はイザベルですわ。イザベル・デ・カスティーリャと申します」


「なんとカスティーリャの姫君。ああ私の想像通りのお方だった。美しく、そして、気品のあるお方だ。イザベル殿」


「まあ、嫌ですわ。それで、あなたの名は?」


「おっ、これは失礼しました。我が名は、フェルナンド。フェルナンド・デ・アラゴンです」


「まあ、アラゴンの王太子様……。大変、失礼致しました」


「何を失礼などと、われはアラゴンの王太子、あなたはカスティーリャの姫君。なんの遠慮がいりましょう」


「そうでしょうか?」


「はい、こんなところで立ち話とはなんです。この先に、アラゴン王家の別邸があります。そこで、ゆっくりお話でも」


「まあ、それは良いですわ。是非」


 そう言って、イザベルちゃんとフェルナンド君は連れ立って、アラゴン王家の別邸に歩いて向かったのだった。



「えっ、こんな事で良いのですかね?」


 じいには理解出来ない。そう思ったのだった。



 1466年の事だった。イザベルちゃん15歳。フェルナンド君14歳の出会いだった。




「しかし、フェルナンド様がイケメンだからと言って、あんな強引な出会いまでされて、結婚相手にとお考えなのですか?」


「そうじゃが?」


「左様ですか。ですが、姫様のご趣味ですからあれですが、顔だけで結婚相手を選ばれるのはいかがかと?」


「じいは、馬鹿なのか?」


「はい?」


 イザベルちゃんは、じいに話し始める。



 カスティーリャ王国にとって、同盟相手として必要なのはポルトガルではなく、結婚相手としてふさわしいのは地中海に領海権を持つアラゴン=カタルーニャ王国の王子フェルナンドであると。


 ポルトガル王国は、外海に向けての航路のライバルであり、利害が一致するのは、アラゴン王国なのだと。



「顔は二の次なのじゃ〜」


「なるほど」

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