第2話 反エンリケ派とイザベル

 有力な大貴族、騎士団に、その他の小貴族達が、反エンリケ4世を掲げ、アルバロの街に集結した。


 カサス=レアレス城は、イザベルちゃん達の幽閉場所から一転。反エンリケ4世の反攻拠点となったのだった。その為に、イザベルちゃん達は、カサス=レアレス城を出て、アルバロの領主の館に入ったのだった。


 今でこそ、人々が集まりにぎわいを見せていたが、元々は地方領主の館。王族を幽閉するために内装を豪華にしたカサス=レアレス城と違い、質素な屋敷ではあった。



「何なのじゃ〜、このボロ屋敷は〜」


「姫様〜、失礼ですぞ」


「うるさいのじゃ〜、妾は姫じゃぞ」


「まあ、一応そうですが」


「むっ、今、一応と言うたかえ、じい?」


「い、いえっ、そのような」


「せっかく不能王と和解出来るところだったのじゃ。それを邪魔しおってからに〜」


「まあ、左様ですが……」


 そう、このイザベルちゃんは、カスティーリャ国王であるエンリケ4世に書状を送り、色々噂のあるフアナ王女ではなく、男子であり、一応異母弟ではあるが、弟のアルフォンソ君を後継者として和解しようとしていたのだった。


 あなたが生きているうちは王位を狙いませんよと。


 この行動は、エンリケ4世派の貴族達や、近隣のアラゴン王国、ポルトガル王国の王族、貴族にも好意的に受け止められた。


 そして、エンリケ4世はアルフォンソ君に王位継承者を示す、アストゥリアス公の名を贈る。


 これで、これ以後子供の誕生しなさそうな、エンリケ4世の跡取りは、アルフォンソ君になるはずだった。


 そして、イザベルちゃん達は幽閉を解かれ、マドリードの王城に戻るはずだった。しかし、


「な、何なのじゃ〜、うるさいのじゃ〜」


「ひ、姫様〜。城が取り囲まれております」


「ひ〜、な、何なのじゃ〜。妾は悪くないのじゃ〜」


 と騒いでいるイザベルちゃんとじいであったが、やがて状況がわかってくると。


「余計なお世話なのじゃ〜。馬鹿共なのじゃ〜」


「姫様〜」


 イザベルちゃんは、真っ赤なドレスをまとい、銀色の長い髪をふるふると震わせるつつ、クリックリッの可愛い青い目を見開き、小さくぷっくりした唇をキュッと閉じ、柔らかそうな両頬をめいいっぱい膨らませて怒っていた。


 文字で表現すると、プンプンというやつだった。



 だけど、大勢の軍隊に囲まれてはしょうがない。彼ら曰く反エンリケ派の言う通りにするしかなかった。



「アルフォンソ公いえっ、アルフォンソ陛下。我々はあの不能王エンリケめを排除し、陛下を国王へと我らがつかせてご覧にいれます」


「何を言っておるのじゃ、エンリケ王が死ねば自然とアルフォンソが国王なのじゃ」


「姫様、し〜、聞こえますぞ」


「じい、わかって言っておるのじゃ〜。馬鹿ばかりなのじゃ〜」


「なっ、くっ」


 懸命に怒りを抑える、反エンリケ派の面々。だが、アルフォンソの姉であるイザベルちゃんをどうこうするわけにもいかない。


 そして、アルフォンソ君を盟主として、反エンリケ派の会議が行われることとなった。



「私には何もわからない。姉上が同席されるのなら、出席しよう」


 とアルフォンソ君。



 このアルフォンソ君、やや病弱であり、それ故なのか、やや決断力に乏しい面があり、姉を頼りにしていた。即断即決のイザベルちゃんと正反対の大人しい性格だった。





 あ〜でもない。こ〜でもない。


 あ〜だ、こ〜だ。


 反エンリケ派の貴族達が集まって、会議を行っていた。長いテーブルの一番上座には、イザベルちゃんと、アルフォンソ君がいた。



 そこで大人しく皆の話を聞く、アルフォンソ君のとなりで、目を閉じ女の子とは思えない形相で眉をひそめる、イザベルちゃんがいた。そして、


「何の生産性もない会議なのじゃ〜。妾は、飽きたのじゃ〜」


 イザベルちゃんはそう言うと、席を立って会議室を出て行く。その後ろをオロオロとついて行く、じい。


「姫様〜、皆様に失礼ですぞ~。姫様〜」



 そして、じいも締め出して、1人部屋に閉じこもるイザベルちゃん。



「さて〜、どうするかじゃが〜」


 まずは、エンリケ4世に書状を書いて、自分達は巻き込まれただけと主張する。さらに、ポルトガル王やアラゴン王にも書状を書いて、エンリケ4世をなだめてもらう。いやっ、エンリケ4世ではなく、その取り巻きの貴族達をかな?


 そう考えつつ、イザベルちゃんはベッドに寝転がる。



 エンリケ4世は、女性どころか政治にも興味を示さない。じゃあ、何に興味を示すのじゃ? とは思うが……。まあ、それはどうでも良いのじゃ〜。


 そして、そんなエンリケ4世に代わって政治を主導するのは、取り巻きの貴族達だった。その貴族達を目の上のたんこぶと排除し、自分達が政治の中心になりたいのが反エンリケ派だった。


 どっちもどっちなのじゃ〜。イザベルちゃんの思いだった。


「妾は妾の道を行くのじゃ~」


 イザベルちゃんは、信頼する家臣を呼ぶと、


「この書状を頼むのじゃ」


「はっ」



 そこに、じいの姿がないのは秘密なのじゃ〜。


「酷いですぞ~、姫様〜」


「ウフッ」

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