わがまま姫のレコンキスタ
刃口呑龍(はぐちどんりゅう)
第1章 カスティーリャ王国は妾のものなのじゃ〜!
第1話 追放されたわがまま姫
レコンキスタ。
レコンキスタとは、神聖暦718年から1492年までに行われた複数の神聖教国家によるイベリア半島の再征服活動の総称である。ウマイヤ朝による西ゴート王国の征服とそれに続くアストゥリアス王国の建国から始まり、1492年のグラナダ陥落によるナスル朝滅亡で終わる。レコンキスタはスペイン語で「再征服」を意味する。
このレコンキスタを彩った数々の偉大な王達。そして、このレコンキスタの最後を彩ったのが……。
こんな人で良いのだろうか?
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ〜!」
「姫様、何が嫌なのですかな?」
いかにも好々爺という感じの白髪の長髪を後ろで束ねた優しい目をした銀のプレートメールをまとった騎士であろう壮年の男が、ジタバタと手足を動かす女の子にたずねる。
「見飽きたのじゃ〜、じいの顔を〜、もっと若くて美男子が良いのじゃ〜」
「姫〜、わがままを言わんでくだされ。このじい。昔はイケメンと言われてたのですぞ」
すると、姫はじいの顔をじっと見る。
そして、
「姫は、干からびたチーズではなく、フレッシュチーズが良いのじゃ〜」
「酷いですぞ、姫」
「老兵は、ただ消え去るのみなのじゃ〜」
「姫〜! 我々は、国王陛下に追放されたのですぞ。国王陛下が、許可されるまで帰られませんのですぞ」
「嫌なのじゃ〜、帰りたいのじゃ〜。あんな童貞王など王ではないのじゃ〜」
「姫〜」
この姫と呼ばれた女の子。名は、イサベルと言った。イベリア半島で強大な勢力を誇るカスティーリャ王国の一応姫。
「何が、一応なのじゃ〜!」
「姫様、どうされました」
「むっ? 誰かに一応姫と言われた気がしたのじゃ」
「そうですか? 私には聞こえませんでしたが」
「う〜ん?」
え〜と、イサベルちゃんは、カスティーリャ王国の姫君です。え〜と、でした。
父親は、カスティーリャ王ファン2世。母親は、ポルトガルの王族イサベル・デ・ポルトゥガル。イサベルの名はイサベルの祖母イサベル・デ・バルセロスから受け継がれた由緒正しき名前だった。
で、イサベルちゃんのお母さんは、正妻だけど。ファン2世の最初の妻が亡くなった後に嫁いだ2番目の妻であり、イサベルちゃんには、ファン2世と最初の妻の子である兄がいた。
名は、エンリケ4世。
父王ファン2世は1454年49歳の若さで亡くなる。イサベルちゃんが3歳の時だった。
すると、異母兄であるエンリケ4世が、29歳にしてカスティーリャ国王に即位する。
すると、邪魔に思ったのか、イサベルちゃんの母親とイザベルちゃん、そして、イサベルちゃんの弟アルフォンソ君2歳と共にアルバロにあるカサス=レアレス城に幽閉したのだった。
幽閉されたイサベルちゃん達であったが、イサベルちゃんのお母さんのイサベルさんは、ショックで精神を病み部屋に引きこもり、ここの主人はイサベルちゃんということになった。
幽閉され、外にも出られない、欲しい物も食べられない。
という、日々を過ごす。
「嫌なのじゃ〜、美味しい物食べたいのじゃ〜、出かけたいのじゃ〜、帰りたいのじゃ〜」
「姫〜、わがまま言わんで下され~」
そして、月日は経過。時は1464年。10年の月日が経っていた。イサベルちゃんは、13歳。アルフォンソ君は12歳となっていた。
この時、カスティーリャ国王エンリケ4世と敵対した貴族達が、イサベルちゃんの弟、アルフォンソ君をエンリケ4世の対立王として擁立しようという動きが強まっていた。
カスティーリャ王国は、イベリア半島で最大の国土を持っていた。しかし、カスティーリャ王国は、国王を頂点とする王政国家ではなく、有力貴族の連合国という様相でもあった。貴族達の応援無くしてカスティーリャ王国の統治は難しかった。あの手この手で貴族達を懐柔する。
そのタイミングで、カスティーリャ国王エンリケ4世は、アルフォンソ君に王位継承者を示す、アストゥリアス公の名を贈る。
そう、女児しか子のいないエンリケ4世は、異母弟のアルフォンソを後継者にとも考えたのだった。
エンリケ4世は、この時39歳。2度の結婚し、女児を授かっていた。しかし、一度目の結婚はエンリケ4世15歳の時だったが、13年の結婚生活で、一度として性交渉なく。妻であったアラゴン王の王女ブランカは離婚時公式の検査で処女であることが確認され。
さらに、1465年に結婚したポルトガル王ドゥアルテ1世の王女フアナと再婚し、王女フアナが誕生する。
しかし、王妃フアナは、愛人のベルトラン・デ・ラ・クエバを王宮に連れ込んで共に暮らしていた為、産まれた王女フアナは、ベルトランの子を意味する、フアナ・ラ・ベルトラネーハと呼ばれるようになった。
こうして、エンリケ4世は、仕方なく後継者として異母弟であるアルフォンソを指名したのだったが、そこで、エンリケ4世と激しく対立していた貴族達はアルフォンソを、アルフォンソ12世として、エンリケ4世の対立王として擁立したのだった。
この事件は、イベリア半島を揺るがす大事件の幕開けだった。
その事件のさなか、イサベルちゃんはというと。
「この屋敷は、貧乏臭いのじゃ〜。もっと、良い屋敷が良いのじゃ〜」
「姫、若君のおかげで、我々はここに匿ってもらっておるのです。わがままは言わんでくだされ」
「アルフォンソを後継者にと、エンリケ王に推挙し、まつり上げたのは妾なのじゃ〜。妾をもっと、敬い奉るのじゃ〜」
わがまま姫の叫び声が響く。
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