　春百合ちゃんのお父様は、怒っているわけではないのだが、厳しい口調で俺に言ってくる。

　多分、多くの人は、ここで心が折れてしまうのかもしれない。

　しかし、俺は、これよりつらい経験を前世の時にしている。

　その時のつらさに比べれば、まだ耐えることはできる。

　大七郎と寿屋子ちゃんには勇気をもらっていた。

　そして、何よりも、春百合ちゃんという愛する女性がいる。

　俺は、緊張が逆にどんどんおさまっていき、冷静になってくる。

　そして、心と体に力がみなぎり始めていた。

「わたしは春百合さんが好きです。大好きです。愛しています。わたしは春百合さんと婚約、そして、結婚して、一生愛し抜くということを心に決めています。お父様の懸念も理解します。しかし、わたしは、春百合さん以外の女性に心を奪われることはありません。春百合さんとは、友達としてではなく、恋人どうしとして、付き合っていきたいと思います。そして、俺は春百合さんを幸せにします」

　俺は全力で熱意を込めて、お父様に春百合ちゃんへの想いを伝えた。

　それを受けて春百合ちゃんも、

「お父さん、わたしも浜海さんのことが好きです。大好きです。恋をしていますし、愛しているのです。わたしも浜海さんと婚約、結婚したいと思っています。わたしには浜海さんしかいないんです、わたしは浜海さんに尽くし、浜海さんと一緒に幸せになっていきます」

　と熱意を込めて、自分の想いをお父様に伝えた。

　春百合ちゃんのお父様は、しばらくの間、腕を組んで考え込んだ。

　やがて、

「きみに一つ聞きたいことがある」

　とお父様は言ってきた。

「なんでしょうか？」

　俺がそう言うと、お父様は、

「わたしの後継者としては、今の時点では、春百合の娘婿になる人物にしたいと思っている。婿養子になるかどうかは、別に気にしていないのでどちらでもいいが、春百合と結婚する人物は、後継者になることを承諾してもらわなければならない。そして、それにふさわしい人物でなくてはならない。きみの春百合に対する想い、そして、春百合のきみに対する想いはある程度は理解した。その点ではわたしのきみに対する評価は一歩前進したと言っていいだろう。しかし、わたしとしては、きみが後継者になる覚悟を持っていないというのなら、そういう点においても、春百合との交際を友達以上にすることを認めることはできない。その点をわたしはきみに聞きたい」

　予想はしていた話だが、いざ厳しい口調で言われると、少し心が萎縮してしまうのは避けられないことだった。

　しかし、それでも俺は、すぐに心を整えて、返事をし始める。

「わたしは今の時点では、高校生ですので、後継者としてふさわしい人間であるという自信はまだありません。したがって、今すぐ後継者としての覚悟を持つことはできません。その点は申し訳ないと思います。しかし、わたしは、今、春百合さんにふさわしい男になる為の自分磨きをしています。そのことを通じて、後継者にふさわしい人物になる努力を一生懸命行っていこうと思っています。後継者になるかどうかは、実際に結婚するまでに、必ず結論を出します」

「つまりきみは。、自分磨きを続けることによって、春百合の結婚相手にふさわしい男になり、後継者としてもふさわしい男になる。そういう努力を続けた後に、後継者となるかどうかの結論を出したいと言うのだな」