第76話 春百合ちゃんの両親へのあいさつ

 俺は、大七郎と寿屋子ちゃん、そして、春百合ちゃんと俺の四人で、春百合ちゃんの両親に対するあいさつの仕方を協議した。


 俺は、このあいさつの中で、春百合ちゃんとの仲を春百合ちゃんの両親に認めてもらおうと思っている。


 二人から勇気をもらった春百合ちゃんと俺は、明日、春百合ちゃんと俺の仲を絶対に両家公認の仲にしようと思っていた。




 翌日。


 気持ちいい風が吹く、さわやかな日。


 俺たちは、ゴールデンウィークを迎えていた。


 その中を俺は春百合ちゃんの家に向かって歩く。


 家を出る前にシャワーを浴び、背広を着て、ネクタイもしめた。


 身だしなみをきちんと整えて、失礼のないようにしている。


 春百合ちゃんも、これからの俺との婚約・結婚につながっていく話なので、俺と同じくらい緊張をしていると思う。


 しかし、昨日の夜、電話で話した時も、俺の方をまず気づかってくれていた。


 俺も春百合ちゃんのことを気づかっている。


 しかし、気づかいの面では春百合ちゃんの方が上だと思う。


「もしお父さんが春百合ちゃんとの付き合いに反対し続けるようだったら。わたしが絶対に説得する。心配しないで」


 と言ってくれるほだ。


 俺はその春百合ちゃんの気づかいにも応えなければならない。


 夜寝る前の正座の時間も、いつもの倍にして、心を穏やかにするように心がけた。


 そうして、心を落ち着けて家を出たのだが、春百合ちゃんの家が近づいてくると、また緊張してきた。


 でももう行くしかない。


 今日を逃してしまうと、また当分、春百合ちゃんのお父様には会えそうもないからだ。


 そして、俺は春百合ちゃんの家の玄関前にきた。


 チャイムのボタンを押すのも緊張する。


 押してしまえば、もう後戻りはできない。


 一瞬、このまま帰ろうという気になったが、それを乗り越えて俺はボタンを押した。


 ドアが開くと、春百合ちゃんが出迎えていた。


「浜海ちゃん、こんにちは。ようこそ」


 と春百合ちゃんは微笑みながら言った。


 春百合ちゃんも、今日のこの場が、これからの婚約・結婚につながっていくと認識しているので、正装をしていた。


 その姿は美しいのだが、今の俺にそれを味わう余裕はなかった。


 席に案内されると、春百合ちゃんのお父様とお母様が正装をして座っていた。


 二人にとっても、大切な場として認識されているのだろう。


 俺はますます緊張していく。


 俺は春百合ちゃんと隣どうしとなり、春百合ちゃんの両親と向かい合った。


 お互いにあいさつをした後、春百合ちゃんのお父様が話をし始める。


「きみは、春百合と付き合いを始めたそうだね。しかも、恋人どうしとしての付き合いを」


 思っていた通り、厳しい表情で話すお父様。


「しかも、もう結婚というところまで考えているという」


 緊張は続いているが、それを抑えていく。


 そして、熱意を込めて俺は、


「その通りです。このまま春百合さんと恋人どうしとして付き合っていき、大人になったら結婚したいと思っています」


 と言った。


 言い過ぎもしれない。


 でもこの言葉は、最初から言わなければならない言葉だ。


「きみは、自分がわたしに何を言っているのか、わかっていないように思う。きみはまだ大人ではなく高校生だ。きみと春百合が幼馴染で、その想いが恋に変わったとはいっても、まだ大人になるまでには時間がある。心変わりなどいくらでもしてしまうものだ。きみにはそのことが理解できていない。いや、理解しろというのは無理な話だろう。しかし、その可能性が強いと思えば、きみと春百合の交際は、幼馴染なので、友達としては認めるが、それ以上の関係に進むのは、今は認めることはできない」

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