第69話 俺と付き合ってほしい

 俺たちは俺の家に入った。


 春百合ちゃんにソファーに座ってもらい、俺は紅茶とお菓子の用意をする。


 そして、俺は春百合ちゃんとテーブルを通じて向かい合わせにあるソファーに座った。


 緊張はおさまらない。


 制服姿の俺たち。


 紅茶を一口飲み、ようやく少し心が落ち着いてきた。


 春百合ちゃんの方も紅茶を一口飲み、心を落ち着かせているようだった。


 そして、春百合ちゃんは、


「わたし、今日、浜海ちゃんに何を言われても、受け入れていきたいと思っているの」


 と俺に対して、しっかりとした口調で言った。


 俺は、目が覚めた気分だった。


 この春百合ちゃんの気持ちに、一生懸命応えていこう。


 俺は春百合ちゃんに話をし始めた。


「俺は、物心がついてからずっと春百合ちゃんに嫌な思いを持ち、避けてきた。まずそのことについて、春百合ちゃんに謝りたい」


 俺はそう言うと、頭を下げた。


「浜海ちゃんが謝ることじゃない。わたしが前世で浜海ちゃんに酷いことをしたから、そこで受けた心の傷が、浜海ちゃんをそうさせたの。悪いのは全部わたしなの」


 そう言うと、春百合ちゃんは涙を流し始めた。


 そして、


「浜海ちゃん、どうか、そのことでは苦しまないで。前世でそれだけの酷い仕打ちをされたら、たとえ今世でそのことを覚えていなかったと思っていても、心の底ではその記憶が残ってしまうものだと思うから、浜海ちゃんがそういう対応をするのはむしろ当然だとわたしは思っているの。でも、浜海ちゃんは、そう言いながらも、わたしとずっと今まで一緒に人生を歩んでいた。わたしは、浜海ちゃんと疎遠になるのが一番嫌だったので、そばにずっといてくれただけで、よかったと思っているの」


 と春百合ちゃんは涙声で言った。


「春百合ちゃん……」


「わたし、今日は、浜海ちゃんに『付き合うことはできない』と言われるのを覚悟してきた。それは仕方がないことだと思っているの。でもせめて、これからも幼馴染としていさせてほしい……」


 春百合ちゃんは頭を下げ、涙を流す。


 そうじゃない、そうじゃないんだ!


 俺は心の中でそう叫ぶ。


 俺は、


「春百合ちゃん。今日、俺が春百合ちゃんを家に呼んだのは、今までのことを謝りたかったのがまず一つだったんだけど、もう一つあるんだ」


 と言った。


「もう一つ?」


「そうだ」


「それは、やっぱり、『わたしと付き合うことはできない』ということじゃないの?」


「そうじゃない」


 俺は一旦言葉を切った。


 緊張がますます高まってくる。


 それでも俺は心を整え、


「俺は春百合ちゃんと付き合いたいと思っているんだ」


 と言った。


「わたしと、付き合ってほしい……」


 春百合ちゃんは呆然としている。


 あまりにも予想外の返事だったようだ。


「俺は春百合ちゃんが好きだ。俺は今まで、その想いを抑えつけてきたけど。もう抑えつけることはしない。心の底から春百合ちゃんのことを愛していくんだ」


 俺は力強く春百合ちゃんに言う。


「春百合ちゃん、それは本心からそう言っているの?」


「もちろんだよ。俺にはもう春百合ちゃんしかいない。春百合ちゃんにこれからの人生は尽くしていくつもりなんだ」


「浜海ちゃんがそう言ってくれるなんて……。わたし、夢でも見ているのかしら……」


「春百合ちゃん、これは夢なんかじゃない。現実のことなんだ」

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