第67話 春百合ちゃんと恋人どうしとして生きていきたい

 その日の夜、俺は、ベッドに寝転んで春百合ちゃんのことを想っていた。


 今日、つやのさんに、


「心の奥底では、里島さんのことが好きなんだと思う」


 と言われてから、その想いが心の底から湧き出し始めている。


 春百合ちゃんのことが好きだという気持ちを、俺は認識していなかったわけではない。


 しかし、今までは、春百合ちゃんに対して嫌な思いをしていたので、そういうものがずっと抑えられていた。


 つやのさんは、俺のその想いを解き放つきっかけになった気がする。


 春百合ちゃんは、幼い頃から今までずっと、どうしてそこまでというくらい、俺のことを好きでいてくれた。


 毎日毎日、俺が嫌がっても、「好き」という言葉を言い続けてくれた。


 中学校一年生以降は、「愛している」という言葉も、毎日言い続けてくれた。


 ルインでも、俺は嫌がってはいたのだが、毎日、


「浜海ちゃんのことが好き」


 という言葉を書いて送付してくれたし、中学校一年生以降は。


「浜海ちゃんのことを愛している」


 という言葉も、毎日書いて送付してくれた。


 俺は書いてもらった言葉に対して、一度も返事をしたことがなかったのにも関わらず。


 今日は、「二日間」のことがあるので、直接「好き」「愛している」という言葉は言われていないし、ルインでも「好き」「愛している」という言葉の送付はない。


 それが、どんなに寂しいものか、身に染みて思わされる。


 そして、毎日、春百合ちゃんが俺に想いを伝え続けてくれたことは、とてもありがたいことだったと思う気持ちが湧き上がってくる。


 そのことも、俺の春百合ちゃんへの想いを強くしていく。


 また、春百合ちゃんは、中学生になると、一か月に一度ではあるが、お昼休みのお弁当を作ってくれるようになった。


 春百合ちゃん自身は、毎日お弁当を作りたいと、中学校一年生の入学式の日に申し出ていた。


 もし、これを承諾していれば、中学生の間、ずっとお昼休みは春百合ちゃんのお弁当を食べることができたに違いない。


 そして、今よりも仲は深まっていたかもしれない。


 しかし、俺は、その申し出を断った。


 この時も春百合ちゃんへの嫌な思いが湧き出していたのだ。


 ただ、それだけが理由ではない。


 春百合ちゃんの負担になるので、それを避けたいという気持ちもあった。


 でも春百合ちゃんは、


「好きな春百合ちゃんの為にお弁当を作りたい」


「お弁当を作ることはわたしの負担には全くならない。むしろこれが料理の練習にもなって、春百合ちゃんのお嫁さんになった時に役立つ」


 と言って、なかなかあきらめることはなかった。


 俺としても、その申し出は、ありがたい話だった。


 この申し出を受けていれば、その後の中学生生活の間、お昼休みはほとんどパンと牛乳で過ごすということはなかったと思う。


 せっかくの申し出なので、受け入れておけば、健康の面でもよかった気がする。


 俺は春百合ちゃんの申し出を断り続けた。


 しかし、春百合ちゃんが悲しい表情をすることもあり、結局、月一回だけは作ってもらうことになった。


 もともと小学生の時、大七郎と寿屋子ちゃんと俺の三人で、春百合ちゃんの家に遊びに行くことがあったのだが、その時に、春百合ちゃんの手料理を食べる機会があり、その時もおいしいと思っていた。


 春百合ちゃんのお弁当をお昼休みに初めて食べた時のあのおいしさは、それ以上のものだった。


 一生忘れられないものになった。


 これなら毎日作ってほしいと思ったものだ。


 俺の心の中にある、春百合ちゃんへの嫌な思いが湧き出してこなければ、途中からでも毎日にしてほしいとお願いしたと思う。


 高校生になってからも、春百合ちゃんは、月一回でいいからお昼休みのお弁当を作りたいと言っていた。


 その返事はまだしていないままだった。


 しかし、春百合ちゃんへの嫌な思いがなくなりつつある今、春百合ちゃんさえよければ、毎日作ってほしいと思うほどになっている。


 春百合ちゃんは、俺の体調をいつも気づかってくれていた。


 特に小学生の頃の俺は、体が弱い方だったので、毎日、俺の健康について心を砕いていた。


 俺が熱を出した時は、看病もしてくれた。


 でも今までの俺は、そういうところも嫌なところだと思ってしまっていた。


 ここまで思ってくれる人は、なかなかいないというのに……。


 二人だけで遊ぶことは、今まで一度もなかったが、大七郎と寿屋子ちゃんと俺との四人でのカラオケでは、アニソン中心の美声をいつも聞かせてくれた。


「四人でいくのも楽しいけど、いつかは浜海ちゃんと二人だけでカラオケに行きたいな。二人だけで、アニソンを歌いまくりたいな」


 と春百合ちゃんは言っていた。


 そのことは大七郎と寿屋子ちゃんも後押ししてくれていたが、今までは二人だけで行くことはできなかった。


 春百合ちゃんは、俺と二人きりで遊びたいと思うほど、俺のことが好きなのだ。


 俺も心の底ではそういう気持ちはあったということが、今になると理解されてくる。


 このように、俺のことを想ってくれた春百合ちゃん。


 前世で俺に酷いことをしても、今世ではこんなにも俺のことを想ってくれる。


 俺はもう前世でのことを乗り越えて、春百合ちゃんと付き合い、ラブラブな恋人どうしになっていくべきだ。


 春百合ちゃんのことを今まで嫌に思っていて、避けていたことは謝ろう。


 俺は春百合ちゃんのことが好きだ。


 明日、春百合ちゃんに告白する。


 俺は春百合ちゃんと恋人どうしとして、これからは生きていきたい。


 俺はそう強く思うのだった。

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