第66話 つやのさんの言葉
つやのさんの相談が終わった後、つやのさんは、
「夏居くん、相変わらずかっこいいね」
と微笑みながら言う。
「俺がかっこいい? 冗談は言わないでほしいなあ。俺なんて、ただの地味キャラだし」
俺は苦笑いをしながらそう言った。
「冗談ではないわよ。夏居くんのことハンサムだと言う女子は多い。そして、頭がいいし、やさしいし、思いやりががある。こうして相談にもなってくれて、的確なアドバイスをしてくれるから、夏居くんを狙っている子がわたしの周囲には何人もいたの」
「俺にとっては、信じられない話だな。告白されたことは結局なかったし」
「それは、夏居くんのそばにいつも幼馴染の里島さんがいるからよ。付き合っていないとはいっても、みんな遠慮して、告白することができなかったの」
そう言った後、つやのさんは言葉を一回切り、続ける。
「わたしは夏居くんに好意を持っている。でも、付き合うのは最初から無理だと思っていたので、夏居くんとは仲の良い友達でいようと思ったの」
つやのさんは少し恥ずかしそうに言った。
「そうだったんだ……」 。
春百合ちゃんに告白することを、幼馴染の俺がいるので、遠慮する男子がいたことは、今までも聞いていた。
しかし、俺に告白することを、幼馴染の春百合ちゃんがいるので、遠慮する女子がいたというのは、初め聞く話だった。
特につやのさんが俺に好意を持っていたという話は初耳だった。
「夏居くんとは仲の良い友達でいようと思ったの」
とつやのさんが言った時、ちょっと残念そうな表情になった気がした。
いや、それは、俺の気のせいだろう。
つやのさんが俺のことを仲の良い友達として思ってくれるのであれば、俺もその思いには応えていきたい。
「夏居くん、高校では、里島さんが夏居くんの幼馴染だと知らない人が多いと思うから、夏居くんに対して告白してくる人が出てくると思う」
「そんなことあるのかなあ……」
「もう、自分のことを全然誇らないんだから。普通、夏居くんのような人だったら、もっと自分に対して自信をもっていいと思うし、少しくらい自慢してもいいくらいだと思うの」
「それは買いかぶりすぎだと思うけど……」
「まあ、いいわ。それが夏居くんのいいところでもあるもんね」
つやのさんはそう言うと微笑んだ。
相談前に比べると、だいぶ元気になってきている。
俺はそれがうれしかった。
「ところで、夏居くんは、まだ里島さんと付き合っていないの?」
俺は今日、つやのさんから、こういう話を振られるとは思っていなかった。
今までだと、
「里島さんは幼馴染だから、そういうことは、もしするとしても先の話だな」
と応えていた。
しかし、昨日から俺は、ずっとそのことについて、これからどうするべきか、悩んでいる。
とはいうものの、今の時点では、いつもと同じ返事をするしかなさそうだ。
俺がそう思っていると、つやのさんは、
「わたし、夏居くんへの相談後。里島さんや初町さんと友達になったの。そこまでおしゃべりをする仲ではなかったけど、恋話を何度もしてもらったことがある。その中で、里島さんは、いつも『夏居くんのことが物心ついた頃からずっと好き。わたし、夏居くん以外の人を好きになることは、これからも絶対にないの』と言っていた。わたしは夏居くんのことをうらやましく思った。こんなにも愛されているのだから。でも夏居くんは、一向に里島さんと付き合おうとしない。わたしは夏居くんに救けられたし、今度も救けられようとしている。その救けてもらった人にわたしは幸せになってほしいと思っているの」
と言った。
「ありがとう。その気持ちは受け取っておきたい。ただ、まだ付き合うというところまで、心が進んでいないんだ」
俺がそう言うと、つやのさんは、
「夏居くん、わたしが思うに、心の奥底では、里島さんのことが好きなんだと思う。中学生の頃までならともかく、もう高校生になったのだから、そろそろその想いを里島さんに向けて伝えるべきだと思う。里島さんは、『わたしの人生は、夏居くんに尽くす為にあるの』ということも言っていた。夏居くんのことをそこまで想っているんだと思ったの。そういう里島さんと夏居くんが、恋人どうしになっていけば、きっといい方向に向かっていくと思う。そして、結婚して幸せにになっていくと思っている」
とやさしく言ってくれた。
俺は、
「ありがとう。里島さんと俺のことを気づかってくれて」
と言った。
つやのさんの言う通りだと思う。
俺は心の奥底では、春百合ちゃんのことが好きだ。
前世の浮気のことはもう過去のこととして、その想いを春百合ちゃんに伝える時がきているのだろう。
会計が終わった後、俺たちは外に出た。
もう夜が迫ってきていた。
「今日はありがとう。また連絡するね。今度連絡する時は、いい報告ができるようにしたいと思っているわ」
つやのさんは俺に頭を下げる。
「好きな人とうまくいくことを心から願っているよ」
俺がそう言うと、
「わたしも夏居くんが里島さんと恋人どうしになれることを願っているわ」
「ありがとう」
つやのさんは俺に手を振りながら、去って行く。
俺はつやのさんが、好きな人と相思相愛になれるように願っていた。
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