第61話 苦しい思い
俺は、自分自身前世のことを思い出したのと、春百合ちゃんが思い出した前世のことを合わせて、前世での春百合ちゃんと俺の人生を把握した。
とは言っても、心の整理は、全く追いついていかない。
まず、前世の春百合ちゃんが、イケメンに寝取られてしまっていたこと。
この衝撃はあまりにも大きすぎた。
この記憶が俺の心に流れ込んだ時は、一気に心が沈んでいった。
当時の心の苦しさが、直に俺に伝わってくる。
幼馴染として仲良く過ごしてきて、恋人どうしにもなり、愛を育みつつあった俺たち。
それが、イケメンの前世の春百合ちゃんへの誘惑ですべてが台無しになってしまった。
前世の春百合ちゃんは、あっという間に心も体もイケメンのものになった。
その心を俺の方に呼び戻すことはできず、さらに俺の目の前でイチャイチャしてしまうとい酷い仕打ちまで受けた。
そのつらさ、苦しさが俺の前世の記憶として悲痛な形で伝わってくる。
そして、今の俺の心の底からも、そういうものが湧き上がってくる。
俺は心が壊れそうな気持ちになってくる。
今世の俺が寝取られたわけではない。
しかし、前世のことを思い出すということは、人生一度きりという心の空しさからは脱却できるものの、前世でつらくて苦しいことがあった場合、今世の俺の心自体にも大きな打撃を与えるものであることを理解した。
こんなことだったら、前世のことを思い出さなければよかったのに、と思わざるをえない。
しばらくの間、俺は心の整理に努め、つらさ、苦しさを何とか少しでも弱くしていこうとしていた。
春百合ちゃんは、話が終わってからは、ずっと、
「ごめんなさい。浮気をしてしまって、ごめんなさい」
と言って泣き続けている。
俺は、前世の春百合ちゃんとイケメンのことについて、意識を向けざるをえなかった。
前世で、俺から寝取られた春百合ちゃんや俺を寝取ったイケメン。
二人については、最初は、酷い仕打ちをしたことに腹を立てざるをえなかった。
しかし、心が少し落ち着いてくると、複雑な気持ちを持つようになっていた。
俺に酷い仕打ちをした二人は、その後、幸せな人生を歩むことはできなかった。
どちらも短い人生で、最後は心も体も壊れてしまった。
特に前世の春百合ちゃんは、俺に対して、申し訳ないという気持ちを入院してからこの世を去るまで、ずっと持っていたようだ。
そう思うと、春百合ちゃんはかわいそうな気がしてくる。
春百合ちゃんも、つらく、苦しい思いをしていたのだ。
ただ、そうは思うものの。寝取られていたという打撃があまりにも多すぎて、心が痛んでしまい、少々心を落ち着けたぐらいでは、春百合ちゃんとのこれからの向き合い方を整理することはできない。
春百合ちゃんは、前世のことを俺に対して詫び続けている。
俺としても、浮気をしたのは、今世のことではないのだから、今の春百合ちゃんのことを恨むのは筋違いだというのは理解している。
今世では、しかも、同じようなイケメンの誘いをきちんと断ってくれているのだ。
それだけ俺のことを想っていてくれている。
これを機に、春百合ちゃんと俺は新しい関係を構築する必要があると思う。
しかし、それには時間が必要だった。
どうしても春百合ちゃんには、前世で寝取られたことを、今世での姿に重ね合わせるようになってしまっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます