第60話 俺に流れ込んでくる前世の記憶

 春百合ちゃんは、前世のことを話し終えた。


 そして、春百合ちゃんはその後、


「ごめんなさい。浜海ちゃん。今話をしたように、わたしは浜海ちゃんに酷いことをしてしまっていた。わたしが同じ立場だったら。生きる気力がなくなるレベルだと思う。いまさら詫びてもどうしょうもないことだけど……」


 と涙を流しながら言った。


 俺は今、混乱の極みにいた。


 春百合ちゃんが前世の話をしている間に、俺自身の前世の記憶も、俺の心の中に流れ込んできていた。


 しばらくの間、その状況に困惑していることしかできなかったが。やがて、少しずつ整理ができるようになってきた。




 俺は春百合ちゃんと前世でも幼馴染だった。


 俺は、高校二年生の春に、前世の春百合ちゃんに告白して、恋人どうしになった。

 少しずつ恋人どうしらしくなってきた俺たち。


 でも、そうなってきたところで、彼女は、同学年のイケメンに告白された。


 彼女は、そのイケメンに心を奪われ、二人だけの世界に入っていった。


 そして、俺は、その目の前で二人にイチャイチャされてしまった。


 こうして俺は、そのイケメンに、前世の春百合ちゃんを寝取られてしまい、心も体もが壊れてしまった。


 そして、入院をすることになったが、病状が急激に悪化して、わずか一週間でこの世を去ることになった。


 俺が前世を去る時に祈っていたのは、


「もし来世というものがあるということでしたら、今度は、俺のことだけを思ってくれる素敵な女性と結婚したいです。よろしくお願いします」


 ということだった。


 そして、来世では、前世の春百合ちゃんにはこだわらず、そういう女性と結婚して一緒に幸せになっていきたいと思っていたのだった。




 この内容だけでも、心の整理は大変だ。


 その後のことについても、心の整理をするのは大変なことだった。


 俺の前世の記憶は、自分が生きていた時までしかない。


 前世の春百合ちゃんのその後のことや、イケメンのその後のことは、俺にはわからないのだが、それについては、今、春百合ちゃんが話をしてくれた。




 前世の春百合ちゃんは、その後、新しい恋人を作ったイケメンに捨てられてしまった。


 彼女は。イケメンに捨てられてから、俺の良さを理解するようになった。


 そして、俺に対して、浮気をしたことについて、後悔をし始めた。でもそう思った時には、俺はこの世にはいない。


 心が壊れた彼女は、やがて病気になり。入院することになってしまった。


 病状は悪化する一方。


 その間にイケメンの方は、今まで彼が捨ててきた女子たちに復縁を厳しく迫られ、修羅場となっていまい、心も体も壊れ、この世を去ってしまっていた。


 彼女の病気も良くならず、この世を去ってしまうことになる。


 この世を去る前、彼女は。


「来世では、わたしは陸定ちゃんのことのみを想います。そして、陸定ちゃんと恋人どうしになります。陸定ちゃんを大切な存在として愛し続け、結婚して、絶対に幸せにします!」


 と強く思ったということだった。


 こうして、前世のイケメンも前世の春百合ちゃんも、そして俺も短い生涯を閉じた。

 大人になれないまま、この世を去るということがみじめな人生というのであれば、俺たちは、全員みじめな人生になってしまったことになる。


 その中で、今世には、春百合ちゃんと俺が生まれ変わってきていた。

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