第59話 わたしは間に合わない・来世では幼馴染に尽くしたいわたし (春百合・蒼乃サイド)

 わたしの友達は、冬一郎くんについての話をした。


 涼子さんともう一人の友達も、今、その友達が言った、


「気の毒とは思うけど、もう少し女子のことを大切に扱っていれば、こんなことにはならなかったのにね」


 という意見と同じような意見を持っているようだった。


 話自体は、冬一郎くんに対してそれほど関心がない三人だったので、そのまま他の話題に移っていたのだが、その日の夜、わたしは一人になると、冬一郎くんのことを思わざるをえなかった。


 陸定ちゃんからわたしを寝取った冬一郎くん。


 そして、陸定ちゃんに対して浮気をしていたわたし。


 冬一郎くんは既にこの世にはいない。


 わたしももう間もなくこの世を去ってしまう。


 わたしたちが陸定ちゃんに対して、浮気という大きく心を傷つけることをしなければ、陸定ちゃんも元気に大人になっていくことができただろう。


 冬一郎くんはともかく、わたしの方も元気に大人になっていくことができたに違いない。


 陸定ちゃんとも、幼馴染というところから脱却して、ラブラブな恋人どうしになれたかもしれない。


 そして、そのまま進んでいけば。婚約・結婚というところにも到達できたかもしれない。


 それが一番幸せなことだったというのに……。


 冬一郎くんは、大人になれないままこの世を去ってしまった。


 陸定ちゃんも、大人になれないままこの世を去ってしまった。


 わたしも、大人になれないままこの世を去ることになる。


「蒼乃ちゃん、待ってくれ。俺は蒼乃ちゃんが好きなんだ。愛しているんだ……」


 陸定ちゃんの悲しい声を思い出す。


 わたしが人生の選択を間違えなければ……。


 目から涙がこぼれてくる。


 わたしは体の苦しさに耐えながら、涙を流していた。




 それから数日後。


 病状はさらに悪化していく。


 両親と主治医がそばにいた。


 一生懸命治療をしてくれた主治医。


 わたしが入院してからほとんど一緒にいて一生懸命看病してくれた母親。


 そして、数日前に単身赴任先から来てくれて、そのまま一生懸命看病してくれた父親。


 わたしは、心の底から、


「ありがとうございました」


 と言って、感謝の気持ちを伝えた。


 その後、わたしの苦しさは増していく。


 わたしの生命もここまでのようだった。


 この一か月ほどで、生きる気力もなくなってきていたわたしにとっては、そう思っても、それほど残念なことだとは思わなかった。


 ただ、生命というのは、この世で本当に終わってしまうのだろうか?


 ということは思うようになっていた。


 今までは、生まれ変わりがあるということは、信じたことはなく、この世限りの人生だと思っていた。


 周囲の人たちも、みな人生はこの世限りだと思っていた。


 しかし、こうして、人生の終着点が近づくと、来世があることを信じたくなってきた。


 もし来世というものがあるのであれば、陸定ちゃんの幼馴染として生まれ変わりたい。


 今世で陸定ちゃんの心を大きく傷つけた分、陸定ちゃんに尽くし、癒せる存在になりたい。


 陸定ちゃんのそばから離れず、ずっと愛し続けていきたい。


 わたしは、生命が失われるその瞬間まで、苦しさに耐えながら、一生懸命祈り続けていた。


 わたしはこの世を去る時、陸定ちゃんからの手紙を待ちながら、


「来世では、わたしは陸定ちゃんのことのみを想います。そして、陸定ちゃんと恋人どうしになります。陸定ちゃんを大切な存在として愛し続け、結婚して、絶対に幸せにします!」


 と心の中で強く思った。


 そして、わたしは、両親が悲しむ中、この世を去っていった。

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