第55話 イケメン冬一郎くんからのメール (春百合・蒼乃サイド)

 冬一郎くんからのメール。


 そこには……。


「俺、他の女性と付き合うことになった」


 それだけが書いてあった。


 どういう意味だろうか?


 他の女性と付き合うということは、わたしと別れるということだ。


 いや、捨てられるということに他ならない。


 冬一郎くんと今まで付き合ってきた女性も、噂では、冷たいメール一本で捨ててきたとは聞いていたが、まさかわたしもそうなってしまうとは……。


 告白した時やデートの時、そして、二人だけの世界に入った時の甘い言葉は、人の心を弄ぶだけにすぎなかったのだろうか?


 いや、そんなはずはない。


 冬一郎くんはわたしを幸せにしてくれると言ってくれた。


 わたしだって、大切なものを冬一郎くん捧げている。


 これは何かの間違いだ!


 そう思ったわたしは。


「明日の放課後、屋上で会いたい」


 と書いて送付したのだったが、返事はなかった。


 わたしはいったいどうすれば……。


 その夜は、なかなか眠ることができなかった。




 その翌日。


 わたしの心は悶々としていた。


 涼子さんが話しかけてきても、上の空。


 相変わらず、冬一郎くんからの返事はないまま。


 メールでの返事が来ないなら、直接冬一郎くんと会って、メールの意味を聞こう。


 それには、冬一郎くんのの教室に乗り込むという手がある。


 また、冬一郎くんを待ち伏せるという手もある。


 しかし、朝はそういう気持ちがあったのだけれど、時間が経つにつれてその気持ちは弱まっていった。


 冬一郎くんは、わたしに対する愛が弱まってしまっている。


 だからこそ、他の女性と付き合うことにしたのだろう。


 少し冬一郎くんと距離を置いて、再び冬一郎くんの心がわたしの方に向いてくるのを待つしかない。


 そう思って、わたしは家路についたのだけれど……。


 わたしの家の前に、なんと冬一郎くんと、冬一郎くんと同じクラスの冬布(ふゆぬの)るきのさんがいた。

 

 冬布さんは最近、男子生徒の間で人気上昇中の女子生徒。


 美少女だ。


 わたしも知らず知らずの内に、違うクラスにもかかわらずその存在を認識させられていた。


 噂で聞いた話では、男子に対してはやさしく接しているようだが、女子に対しては自分の美貌を自慢するなど、高慢な態度を取ることが多く、評判はあまり良くないとのこと。


「池好くん、どうしてわたしの家の前に……」


「どうしてって、わたしの新しい恋人を紹介する為さ」


「恋人?」


「そうだ。紹介することにしよう。俺と同じくクラスの冬布さんだ」


「冬布です。よろしく」


 冬布さんは頭を下げたが、なにかわたしに対して優越感を持っているように思った。

 仲良くできそうな相手ではないと思う。


 わたしは次第に腹が立ってきた。


「池好くんの恋人は、わたしだったはずです。それがなぜメール一本でわたしを振り、この人と付き合うなどと言うんですか? 冗談なら冗談と言ってください」

 わたしは心の底から、冬一郎くんが冗談を言っているのだと思っていた。


 いや、そう思いたかった。


 しかし……。


「俺が冗談でこんなことを言っていると思っているのかな? もしそうならおめでたい限りだ。俺は冬布さんと付き合っているんだ。もうこういうこともしている」


 冬一郎くんはそう言った後、冬布さんを抱き寄せる。


「るきのさん、好きだ」


「冬一郎くん、好き」


 冬一郎くんはその唇を冬布さんの唇に近づけていく、


 そして、重なり合う唇と唇。


 わたしはその瞬間、自分の心が壊れ始めるのを認識した。


 しばらくお互いにうっとりした後、冬一郎くんは唇を離す。


 そして、


「どうだ。このように俺たちはラブラブなんだ、そして、もう一つ。俺たちは二人だけの世界にも入っている。、きみも俺たちのことを祝福してくれるとうれしいな」


 と言ってきた。


 わたしはそれを聞いてめまいがした。


 しかし、こんなところで冬一郎くんの恋人の座を失うわけにいかない。


「わたしは池好くんの恋人です。この人ではありません!」


 わたしは強い調子でそう言った。


 すると、冬一郎くんは、


「俺ときみがいつ恋人どうしになったというのかな?」


 とこれまでにない冷たい声音で言った。


 わたしは少し寒気がしてきた。


「俺はきみとはただの友達だと思っていたのだがな。恋人どうしになったと思ったというのは、きみの単なる思い込みだよ」

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