第53話 この世を去った幼馴染 (春百合・蒼乃サイド)

 陸定ちゃんとは、その翌日から、もう登校を一緒にすることはなくなった。


 わたしは一人で登校することになったが、全く寂しいとは思っていなかった。


 それどころか、冬一郎くんのことで心が一杯で、心が浮き立っていく一方だった。


 その日、陸定ちゃんはホームルーム直前に学校に来たが、元気はなさそうだった。


 でもわたしはそのことを全く気にしていなかった。


 その内、わたしのことなど忘れて、元気になると思っていた。


 それが、わたしたち二人にとって最善の選択だと思っていた。


 陸定ちゃんは、その翌日から、学校に来なくなった。

 

 もう幼馴染としての関係も壊れたので、隣の家ににいながらも、様子を見に行くことすらしなかった。


 わたしの両親がいたら、対応は違っていたかもしれないが、当分は帰ってこない。


 わたしとしては、ちょっと体調が悪くなった程度にしか思っていなかったこともあり、それほど心配はしていなかった。


 ところが、またその翌日になって、陸定ちゃんは入院をすることになった。


 どうやら、体の調子が悪くなったので、病院に行ったら。そのまま入院ということになったらしい。


 陸定ちゃんのお母様が急遽付き添うことになった。


 お母様が付き添いに来たという話だけでも、病気の程度が重いことにこの時点で気づいていればよかったのだが……。


 わたしはお見舞いに行くべきかとうかで悩んでいたが、陸定ちゃんを振ったばかりだということで自重していた。


 しかし……。


 別れはあっという間にきてしまった。


 それから数日も経たない内に、陸定ちゃんはこの世を去ってしまった。


 陸定ちゃんがこの世を去ったと聞いた時、わたしは、どういう対応を取っていいかわからなかった。


 既に恋人としては別れてしまった。


 それだけならまだいいが、陸定ちゃんをあきらめさせる為、酷いことをしてしまった。


 それは、酷いことをすることによって、わたしに対しての心残りが全くなくなった方が、結局のところ、陸定ちゃんの為にはなるだろう、という思いがあったからだ。


 でも、それはやりすぎだったのかもしれない。


 もしかすると、わたしの陸定ちゃんに対する酷い態度が原因で病気になったのでは……。


 そういう思いが心の中を占め始めていたが、まだこの時点では、心の一部を占めているのみだった。


 担任の先生が、わたしを含むクラス全員にホームルームで話をした時は、陸定ちゃんの心のことには一切触れることはなく、


「病気が急激に悪化した結果、この世を去ってしまった」


 とだけ言っていたということも大きい。


 その話を聞いたクラスメイトたちは、その時は気の毒がってはいた。


 しかし、陸定ちゃんはもともとクラスでにほとんど目立たない方だったこともあって、ほとんどの人は、すぐに関心を失い始めたようだった。


 陸定ちゃんとわたしが幼馴染だということは、わたしに興味をもった男子生徒を中心にある程度の人たちは知っていた。


 しかし、付き合っていたことは、涼子さんを含めて数人しかいなかった。


 とはいうものの、陸定ちゃんについての印象は薄くても、陸定ちゃんとわたしが幼馴染であることはある程度の人たちには知られていたので、そういう人たちの中には、わたしに対して、


「幼馴染を失って、つらいでしょう……」


 といった言葉で、慰めてくれる人も、何人かはいるのではないかと思っていた。


 期待をしていたわけではないといいつつ、わたしはどこかで期待していた。


 しかし、慰めの言葉を言ってくれたのは、涼子さんを含むわたしの友達三人だけだった。





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