第51話 幼馴染に別れ話を切り出すわたし (春百合・蒼乃サイド)

 わたしは、陸定ちゃんとのつながりが切れることを心の底では嫌がっている。


 陸定ちゃんにとってもそうだろう。


 そのつながりを断ち切る為には、冬一郎くんの言っているような酷い方法を取るしかないだろう。


 人前でキスをするのは、恥ずかしいが、それは仕方がない。


 わたしは冬一郎くんの案に賛成した。


 明日、その案を実行することにして、細かい打ち合わせをこの場で行った。


「これで、夏井と別れて、俺と名実ともに恋人どうしになることができるね」


「明日が待ち遠しいわ」


 わたしたちは微笑みあった。


 その時のわたしは、陸定ちゃんをあきらめさせ、別れたいという気持ちで一杯だった。


 わたしの心の中には、長年、わたしのことを気づかってきてくれた陸定ちゃんへの気づかいは、全くと言っていいほどなかった。


 そして、いよいよ作戦当日。


 今日も登校は陸定ちゃんと一緒。


 これで一緒に登校するのも最後だと思うと、少し感傷的な気持ちになる。


 でも心はすぐに冬一郎くんで一杯になった。


 陸定ちゃんとは形の上ではおしゃべりをしていたが、上の空で、ほとんど何も聞いていないのと同じだった。


 そして、放課後。


「用事があるので、今日は先に帰る」


 とわたしは陸定ちゃんに言って、家に急いで帰る。


 冬一郎くんも少し遅れてやってきた。


 冬一郎くんは遅れてきたことを謝っていた。


 しかし、陸定くんは一人で帰る時は、公園を通る。


 その為、最低でも十分程度は余計に時間がかかる。


 もし、今日に限ってそのまま帰ってきて、冬一郎くんが間に合わない場合でも、冬一郎くんが来た時点で、陸定ちゃんを呼び出せばいい。


 とにかく、時間の余裕はできたので、わたしたち二人は心を整える。


 そして……。


 陸定ちゃんが帰ってきた。


 作戦開始だ。


 わたしは、


「陸定ちゃん、わたし、あなたに話があってここで待っていたの」


 と言った。


 そして、


「単刀直入に言うわ。わたし、陸定ちゃんと別れて、冬一郎くんと付き合うことにしたの」


 と冷たく言い放った。


 まずはここでわたしの言いたいことをいきなり伝える。


 しかし、陸定ちゃんは、わたしの言った言葉が理解できないようだった。


 わたしは冬一郎くんの恋人になったことを繰り返し伝えた。


 これで、ようやくわたしのことを認識し始めたようだ。


 しかし、まだまだ信じていない様子。


 冬一郎くんも、


「そうだ。俺はお前よりはるかに容姿が優れている。イケメンだ。この時点でお前の勝ち目はないと思っているが、それだけではもちろんない。おしゃれのセンスもお前と違って抜群だし、お前よりはるかに女の子に対して思いやりがあり、気づかいができる。そして、俺はバスケットボール部の主力で、帰宅部のお前と違い、大活躍をしている男だ。蒼乃さんのハートをがっちりつかむことができたのも当たり前だと思う。なあ、蒼乃さん」


 と言って援護をする。


 少しずつ打撃を受け始めてきた陸定ちゃんだが、それでも冬一郎くんとわたしが恋人どうしになったことは、信じることができないようだ。


 わたしは陸定ちゃんにさらなる打撃を与えようとする。


「冬一郎くんの言う通り、冬一郎くんは素敵な男性。わたし、五日前に冬一郎くんに告白されて、ものすごくうれしかった。それと同時に、なんで陸定ちゃんの告白を受けてしまったのだろうと思ったの。冬一郎くんと陸定ちゃんじゃ、魅力に差がありすぎる。冬一郎くんが先に告白してくれたら、いくら幼馴染だからと言って、陸定ちゃんと付き合うことなどなかったのに……これだけは残念なところだと思っているの」


 最後の方は少し冬一郎くんをなじり気味に言うことになってしまった気がする。


 少し失敗をしたかもしれない。


 でも冬一郎くんは許してくれるだろう。

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