第50話 幼馴染と別れたいわたし (春百合・蒼乃サイド)

 翌日。


 わたしは陸定ちゃんと一緒に登校していた。


 もう一緒に登校する気はなかったが、まだ別れていない以上、そうせざるをえなかった。


 陸定ちゃんは、いつものようにわたしに話しかけてきていた。


 今までだと、それはうれしいものだと思っていたが、今のわたしには雑音でしかない。


 そして、冬一郎くんのことばかり想っていたので、ほとんど内容は耳に入ってこなかった。


 教室に入ってからは、陸定ちゃんや、友達とおしゃべりをするのが面倒になって、ホームルームが始まるまで寝たふりをしていた。


 冬一郎くんとの昨日の逢瀬のことを思い出して、一人で楽しんでいたのだ。


 しかし、わたしには今日やるべきことがあった。


 冬一郎くんとの楽しい思い出は、一旦心の奥にしまって、陸定ちゃんとの別れ方について検討する必要があった。


 一番ストレートなのは、どの場所でもいいので、二人きりになった時に、


「わたし、池好くんと付き合うことになったので、陸定ちゃんとは別れる」


 と言うことだ。


 しかし、その勇気はなかなか出てこない。


 幼馴染として長年一緒にいたので、それなりに愛着はある。


 陸定ちゃんの悲しむ顔はなるべくならば見たくはない。


 また、陸定ちゃんの方も、いきなり別れをつげられたとしても、すぐに納得はできないことは、容易に想像できることだ。


 これは、昨日の時点でも懸念点として持ってはいたが、わたしたちの恋人としての出発点が、陸定ちゃんの告白からだったことを思うと、わたしの想像以上の厳しい状況が予想されると思うようになってきた。


「お願いだから、俺の恋人でいてほしい……」


 と泣いてお願いをされるかもしれない。


 わたしが陸定ちゃんに断り続けても、あきらめないかもしれない。


 陸定ちゃんに大きな打撃を与え、涙も出ないほどの状態にして、あきらめさせる方法。


 今日、冬一郎くんへ相談をする前に、わたしとしての案をまとめておきたかったが、なかなかうまくいかず、放課後を迎えてしまった。


 今日は部活のない日なので、本来は陸定ちゃんと一緒に帰るのだが、適当な理由を作って、先に帰ってもらった。


 わたしが家に帰っても、陸定ちゃんと会う気はない。


 わたしは冬一郎くんと会う為、屋上に向かった。


 冬一郎くんと会えるというだけで、心はウキウキする。


 屋上に着くと、冬一郎くんは既に来ていた。


「蒼乃さんは今日も美しい、うっとりしてしまう」


 開口一番、冬一郎くんはわたしを褒める。


 それだけでも心は浮き立ってくる。


 でもこれからわたしは、冬一郎くんに相談をしなければならない。


 わたしは心を整えて、陸定ちゃんとの別れ方を相談した。


 冬一郎くんは既に作戦案を考えてきていた。


「明日、夏井を蒼乃さんの家の玄関の前で、俺たち二人で待つ。蒼乃さんの両親は、今いないと聞いていたから、作戦の舞台としては、そこが一番いいと思ったんだ。夏井がやってきたら、その場所で、俺たちの仲睦まじい姿を見せつける。二人でキスもする。ちょっと酷な話かもしれないが、そこまでしないと、幼馴染として長年一緒にいたきみと夏井とのつながりは断ち切れないと思う。俺たちが仲睦まじい恋人どうしになっていることを、目の前で認識させられれば、夏井は大きな打撃を受ける。そして、蒼乃さんを恋人のままにしていたいという気力はなくなり、蒼乃さんのことをあきらめると思う」


 わたしは、やりすぎだと一瞬思った。


 しかし、幼馴染としてのつながりは、わたしにとって予想以上に固いものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る