第45話 イケメン池好くんの誘い (春百合・蒼乃サイド)

 陸定ちゃんとわたしの仲は順調に深まっていっているように、わたしは思っていた。


 周囲の人たちもそう思っていて、友達は、


「結婚式には必ず呼んでね。わたしも必ず呼ぶから」


 と言ってくれた。


 わたしもそうなるといいなあ、と思った。


 家が隣どうしなので、幼い頃は、窓をお互い開けておしゃべりをしていたことは多かった。


 最近はそういうことも少なくなっていたが、付き合いだしてからは、また毎日のようにお互いの窓を開けて話すことが多くなった。


 このおしゃべりの時間は、楽しいというよりも、お互いにリラックスできる時間だった。


 その一方で、わたしの陸定ちゃんに対する不満は、少しずつではあるがたまり始めていた。


 わたしは、二人の仲は幼馴染から出発しているので、お互いのことは相当の部分で理解できていると思った。


 そういう二人が恋人になっているのだから、お互いのことを理解していくという段階に時間をかける必要はなく、すぐにキスという段階に入っていってもいいと思っていた。


 そして、陸定ちゃんが求めるのであれば、二人だけの世界に入ってもいいと思っていた。


 しかし、陸定ちゃんは、付き合い始めたのにも関わらず、キスに向かって進んでいこうとはしなかった。


 デートの時も、夕方、二人でいい雰囲気になっていたのに、


「今日一日、楽しかった。ありがとう」


 と言っただけで、キスをしようとはしなかったし、その後、二人だけの世界に誘うこともしなかった。


 付き合ってすぐの段階で、キスや二人だけの世界にはいっていくのは、わたしが嫌がりそうだと思っていたようだ。


 今思うと、幼馴染としての意識がわたしに残っていることを考慮して、少しずつ仲を深めようとしていたのだろう。


 それだけ、陸定ちゃんは、わたしのことを気づかっていてくれたのだ。


 しかし、当時のわたしにはそういう気づかいはわからなかった。


 そういう方向に進まないと思えた陸定ちゃんに対する不満だけはたまっていく。


 これも今思えば、陸定ちゃんに、自分の気持ちを伝えるべきだった。


 わたしの方から、


「キスをしたい」


「二人だけの世界に入っていきたい」


 と言うのは、はしたなくて、恥ずかしくてことだと思ってしまい、できなかったのだ。


 こうした行き違いが、陸定ちゃんとの仲を壊すことにつながっていく。




 陸定ちゃんとの仲がよく言えば安定してきたゴールデンウィーク前の放課後、


 部活動に行く前だった。


 どうしても二人で話をしたいことがあると、池好冬一郎くんに言われた。


 わたしは気が進まなかったが、


「そんなに時間を取らせない」


 と言われたのと、もともと少しあこがれを持っていた人だったので、その誘いに乗ってしまったのだ。


 わたしは、待ち合わせ場所の校舎の外れに向かった。


 どんな話をするのだろう?


 世間話というわけではないだろう。


 もしかして、告白されるのだろうか?


 されたとしたら、わたしは付き合っている人がいるので断らなければならない。


 でもそれは惜しい話のような気もする。


 わたしは少し胸がドキドキしていた。


 池好くん。


 学校一のイケメンで、魅力的な男子生徒。


 わたしとは同学年であるものの。クラスが違い、接点は今までなかった。


 しかし、周囲の人たちが彼のことを、もてはやすので、わたしも興味を持つようになった。


 それで、何度かは、少し遠くからではあるが、容姿を見たことがある。


 わたしは彼を、少し遠くからではあっても、最初に見た時から、そのイケメンぶりに心を奪われた。


 イケメン好きのわたしとしては、タイプだと言っていい人だった。


 とはいうものの、わたしは陸定ちゃんとの仲を深めたいと思っていた。


 そして、池好くんの方も既に何人もの女性と付き合っていたので、わたしに興味を持つとは思えなかった。


 それで、池好くんのことは、意識をしないようにしていた。


 しかし、その後も、あこがれの存在であり続けていた。

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