第43話 告白されるわたし (春百合・蒼乃サイド)

 高校二年生を迎えた頃になると、周囲ではカップルが増えてきた。


 わたしの友達も、高校一年生の冬に、同学年の男子生徒に告白されて付き合い始め、恋人どうしになっていた。


 おのろけ話を聞かされるようになり、わたしもだんだん恋人がほしいと思うようになった。


 とは言っても、相手は、陸定ちゃん以外は考えたくはなかった。


 依然として、告白してくる人たちはいて、その中には、何度断ってもあきらめない人もでてきていた。


 わたしは、申し訳ない気持ちになりながら、全員の告白を断っていた。


 高校二年生の春の始業式後の休日。


 わたしは陸定ちゃんの家で、陸定ちゃんとソファーに座り、向き合っていた。


「蒼乃ちゃん、今日は大切な話があるんだ」


 最近ますますわたしに遠慮気味の態度で接してきていた陸定ちゃん。


 今日は緊張しているようだ。


 わたしは、これから陸定ちゃんが何を言うのか、見当がついていなかった。


 思い浮かぶこととすれば、


「もう家事はしなくていい」


「一緒に登下校するのはもう止めよう」


 といったことだった。


「恋人でない以上、そういうことを続けるのは、蒼乃ちゃんの負担になる」


 わたしのこと思いやってくれる陸定ちゃんなら、そう言ってくるだろうと思った。


 でもわたしは、いつの日か、陸定ちゃんの恋人になる日を信じていたので、それは受け入れることのできない話だった。


 陸定ちゃんと一緒にいられる時間が減ってしまうので、恋に向かって進む為の要素が、それだけ減ってしまうことにつながるからだ。


 陸定ちゃんは、次の言葉をなかなか言うことはできなかった。


 わたしが辛抱強く待っていると、やがて、話をし始めた。


「蒼乃ちゃん、俺はずっと蒼乃ちゃんのことが好きだった。高校一年生になるまでは、幼馴染として好きだったのだけど、高校一年生になってからは、恋の対象として好きになった。これからは、蒼乃ちゃんと幼馴染としてではなく、恋人として付き合っていきたい」


 陸定ちゃんは恥ずかしがりながらそう言って、頭を下げた。


 わたしはその時、何を言われたのか、すぐには理解ができなかった。


 予想外の話だったからだ。


 しかし、内容を理解してくると、一気に恥ずかしい気持ちになった。


「わたしと付き合ってほしいの?」


 恥ずかしい気持ちを抑えて、ようやくわたしがそう言うと、


「そうなんだ。俺、蒼乃ちゃんと付き合って恋人どうしになりたい」


 と陸定ちゃんは、今度は先程よりも少ししっかりとした声で言った。


 わたしは、うれしい気持ちが湧いてくる。


 それとともに、陸定ちゃんへの恋する心が急激に湧いてきた。


 それは、わたし自身も驚くほどのものだった。


 しかし、同時に、このまま陸定ちゃんと付き合っていいものかどうか、幼馴染のままでいた方がいいのでは、という気持ちも湧いてきた。


 陸定ちゃんと恋人どうしになった場合、お互いの恋する心が燃え上がっている内はいいと思うのだが、それが冷めてしまって、別れるこことになったら、幼馴染としての関係も、今まで一緒に作ってきた思い出も、すべて壊れてしまう気がした。


 それならば、幼馴染のままの方がいい。


 たとえ疎遠になったとしても、幼馴染としての関係は残るし、二人の思い出も、楽しかったものとして、お互いの心の中に残り続けるだろう。

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