第39話 小学生までのわたしたち (春百合・蒼乃サイド)

 陸定ちゃんの方もわたしに恋する様子はなく、わたしの方も陸定ちゃんを恋する対象としては思っていなかった。


 幼馴染の枠から出ることがなかったので、二人だけで出かけることはなかった。


 陸定ちゃんの家族とわたしの家族は、小学校四年生までは、夏休みと冬休みの二回ほど、合同ででかけていた。


 家族ぐるみの付き合いだった。


 二人きりで遊ぶ時間も作ってもらっていた。


 これは、家や学校の外で陸定ちゃんと二人きりでいられる貴重な時間で、陸定ちゃん幼馴染としての仲が良くなっていくことにつながっていた。


 これが、小学校五年生以降も続いていけば、二人きりの時に恋を語らうことができて、恋人どうしになっていく為の貴重な時間になったと思う。


 しかし、小学校五年生以降はそれができなくなった。


 お互いの両親が、旅行中、わたしたち二人の仲が急激に親しくなって、恋に進むことを怖れていたというわけではない。


 わたしたちの仲自体は、ただの幼馴染の状態よりも、恋人どうしとしての方向に進んでほしいと二人の両親とも思っていた。


 家族どうしの旅行ができなくなったのは、別の理由だった。


 小学校五年生の時、陸定ちゃんの両親が「家庭内別居」の状態になってしまったのだ。


 詳しい理由はよくわからない。


 ただ、隣どうしなので、陸定ちゃんの両親のケンカをしている時の声は聞こえてきていた。


 こうなると、家族どうしの旅行どころではない。


 また、家庭内の雰囲気がこれ以降、冷たいものになってしまったので、陸定ちゃんの心も傷ついていたのだと思う。


 しかし、陸定ちゃんは、そのことについて、悩んだり苦しんでいたりしているとわたしに言ったことはなかったし、態度に出てくることもなかった。


 わたしからもその話題を陸定ちゃんに出すことはなかった。


 わたしは、両親の仲が悪くても、我慢できるほどの心の強さが陸定ちゃんにはあると思っていたのだ。


 今思うと、その時点から陸定ちゃんの悩みを聞いてあげて、癒してあげられればよかったのだけど……。


 家族どうしの旅行ができなくなったのは痛手だった。


 学校以外の外で二人きりになる手段が失われてしまったからだ。


 とはいっても、当時はそこまで深刻に受け止めてはいなかった。


 家で一緒にゲームをして遊んでいれば、それで楽しかったからだ。


 幼馴染として、であれば、それでよかったのだと思う。


 しかし、わたしたちの関係を進める為には、それだけでは足りない。


 恋人どうしではなくても、一緒に外出することができる。


 デートと言っていいだろう。


 そこで、楽しい思い出を作るべきだったと思う。


 そうすれば、小学校の間は無理でも、中学校に入ったらすぐに恋人への道を歩むことができたと思っている。


 でもわたしたちは、それができなかった。


 結局、お互いの家での遊びに終始することになってしまった。


 これは失敗だったと思っている。


 難しかったかもしれない。


 どちらにしても、この時点で恋人どうしになるのは無理だったとは思う。


 しかし、それでも中学生以降のことを想えば、わたしたちは、家で遊ぶだけでは足りなかったと言っていい。


 外でデートをして、楽しい思い出作りをするべきだったと思う。

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