第38話 前世の話の始まり (春百合・蒼乃サイド)

 わたしの前世は、春里蒼乃(はるはしあおの)と言う女性だった。


 浜海ちゃんの前世である夏井陸定ちゃんの幼馴染。


 物心がついた時から一緒にいた。


 家は隣どうし。


 わたしは陸定ちゃんのことを物心がついた頃から好きだった。


 陸定ちゃんも同じ頃からわたしのことが好きだったようで、幼稚園から帰ると、いつもどちらかの家に行って遊んでいた。


 幼馴染で仲のいい間柄だと、


「大きくなったら結婚しよう」


 という約束を幼い頃にすることがあるというが、わたしたちもそうだった。


 幼稚園の頃、陸定ちゃんの家で遊んでいた時、陸定ちゃんがわたしに、


「俺、蒼乃ちゃんのことが好きなんだ」


 と言ってきたことがあった。


 わたしが、


「わたしも陸定ちゃんのことが好き」


 と言うと、陸定ちゃんは、


「それじゃ俺たちは相思相愛だね」


 と言って微笑んだ。


 とはいっても、幼い頃のことだから、陸定ちゃんも恋人どうしとしての意味で使っていたわけではないだろう。


 でもわたしはうれしい気持ちになった。


 そして、陸定ちゃんは、


「俺たち、相思相愛だから、大きくなったら結婚しよう」


 と言ってくれた。


 陸定ちゃんもわたしも、結婚ということの意味を理解しきれていたわけではないが、好きな人どうしがするものという認識はあった。


 わたしは、


「陸定ちゃんがそう言ってくれてうれしい。わたしも、大きくなったら陸定ちゃんと結婚したいと思っている。そのことを約束したいの」


 と微笑みながら言った。


「ありがとう。蒼乃ちゃん。お互いに約束しようね」


 陸定ちゃんもそう言って微笑んでくれた。


 わたしはこの時、とてもうれしかったのを覚えている。


 小学校に入ってからも、仲のいい状態は続いた。


 クラスが小学校三年生の時以外はすべて同じ。


 席も隣どうしのことが多かった。


 登下校も毎日一緒。


 それは、クラスが違った小学校三年生の時も同じだった。


 小学校三年生の頃から、両親の方針で、わたしはお稽古事をするようになったので、放課後遊ぶことは減った。


 それでも休日を中心に遊ぶことはまだまだ多かった。


 幼馴染としてではあったが、小学生の間は仲の良い状態がずっと続いていた。


 周囲の人たちからも、仲が良いのでうらやましがられるくらいだった。


 小学校六年生の頃になると、クラスの中ではわたしたちのことを「夫婦」のように言う人も多くなっていた。


 陸定ちゃんもわたしも、言われる度に恥ずかしい気持ちになっていた。


 そのように言われると、それで二人の仲に亀裂が入る可能性はあった。


 しかし、それで二人の間がぎくしゃくするようなことはなかった。


 また、小学校五年生の頃から、異性に対する告白が始まりだし、少しずつではあるが、付き合いだす人たちが増え始めていた。


 わたしの方にも、誰々が誰々に告白して付き合いだしているとか、付き合っていたけど別れたとか、告白したけど振られたとか、そういう話が耳に入るようになってきた。


 わたしはいつも陸定ちゃんと一緒だったので、小学校の間は、男性に告白されたことは一度もなかった。


 とはいうものの、陸定ちゃんとわたしは恋人どうしと付き合っていたわけではない。


 親しい幼馴染としての間柄だった。


 回数は減ってきたとは言っても、依然として二人で遊ぶことは多く、楽しい思い出になっていくものではあったが、それも幼馴染としてのものだった。

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