第37話 前世の話をしようとする春百合ちゃん
春百合ちゃんは俺の言葉を聞くと、
「浜海ちゃん、今は話をした『とても大切な存在』って言うのは、幼馴染以上の存在として想ってくれるということ? もしかして、恋人としての存在ということ?」
と涙声ではあるが、少し期待を含んだ表情でそう聞いてきた。
春百合ちゃんとしては、俺が少しでも自分の方に心が傾いてくれば、うれしいのだと思う。
俺はどう返事をするべきか悩んだ。
でも今の気持ちを伝えるしかないと思った。
先程、春百合ちゃんに返事をした時は、恥ずかしいと思う気持ちがあった。
それが逆に、勢いのまま言うことにもつながっていた。
しかし、今度の返事は。恥ずかしいという気持ちをきちんと抑えなければならない。
「俺は春百合ちゃんのことをまだ恋してはいない。先程の言葉は、俺が春百合ちゃんのことを恋している前提で話をしてしまった。そこは申し訳なく思っている。でも俺は、今までとは違って、少しずつではあるけれど、春百合ちゃんを恋の対象として想い始めているところなんだ。でもまだまだ春百合ちゃんと恋人として付き合いたいと想うほどにはなっていない。それは、多分、前世のことが影響している気がする。だからこそ、どんなに前世でつらいことを聞かされたとしても、それを乗り越えて、春百合ちゃんを恋人として付き合う対象にしたいと思っている。だから、春百合ちゃん、俺に前世のことを話してほしい」
俺は冷静にそう言った。
春百合ちゃんはしばらくの間、涙を流していたが、やがて涙を拭くと、
「浜海ちゃんがわたしに『とても大切な存在』についての話をしてくれたことで、わたしに対して恋し始めたのだと思って少しうれしくなったの。そして、このままいけば、熱々カップルになるんじゃないか、って少し期待したところはあった。わたしは浜海ちゃんのことが幼い頃からずっと好き。その気持ちは変わるどころか、ますます大きくなっている。毎日浜海ちゃんに『好き』って言ってきたけど、その言葉だけではあまりにも足りなすぎるほど浜海ちゃんが好き。浜海ちゃんしかわたしにはいないと思っていた。そうしたわたしの想いが浜海ちゃんに通じ始めたのだと思った。でも、それはわたしの思い込みだったということ。浜海ちゃんはまだわたしに恋していないということは、前世で浜海ちゃんに酷いことをしているのだから、それは当然だと思う。浜海ちゃんからすれば、あまりにも酷い話だと思うので、もう二度とわたしと会わないと思ってしまうかもしれない。そして、さっきも言ったけど、幼馴染としての関係もこれで壊れるかもしれない。それはとても怖いこと。前世のことを話すことは、躊躇する気持ちがある。でも、前世の話をしないままで、浜海ちゃんに謝らないのは、浜海ちゃんに対してとても申し訳ないことだと思う。そして、浜海ちゃんの言うように、前世の話をして、前世でのことを乗り越えない限り、浜海ちゃんとの仲は深まっていかないと思ったの」
と言った後、浜海ちゃんは改めて心を整える。
そして、
「浜海ちゃん、わたしはこれから前世の話を浜海ちゃんにしようと思う」
と言った。
俺はそれに対して、
「春百合ちゃんの気持ちは理解したい。そして、どんな酷い話でも受け入れる努力を一生懸命したいと思っている。つらく苦しい話になってしまうと思うけど。申し訳ないが、お願いしたい」
と応える。
「ありがとう浜海ちゃん。それでは話を始めることにする」
春百合ちゃんはそう言った後、心を整えて、前世の話をし始めた。
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