第36話 とても大切な存在
「前世の話は、これから浜海ちゃんにしなければならないと思っている。でも、この話をしたら、浜海ちゃんに口をきいてもらえないほど嫌われるかもしれない。それを避けたいという気持ちはあるの、とはいっても、この話をして、浜海ちゃんに心の底からお詫びをしなければならないと思っている。いや、もしかすると、浜海ちゃんは怒ってわたしのことを許してくれないかもしれない。幼馴染としての関係まで壊れてしまうかもしれない。それだけわたしは浜海ちゃんに前世で酷いことをしていたの」
春百合ちゃんはそう言うと、再び涙を流し始めた。
春百合ちゃんは心の底からのやさしさを持っている人だ。
俺はそのことは理解している。
そうなると、春百合ちゃんの言っている「酷いこと」とは何を意味する言葉なのだろうか?
検討がつかない。
でも涙を流すほどのことなのだから、きっとすごいことなのだろう。
心が壊れてしまうほどのことなのだろう。
俺はそのことを聞かない方がいいのだろうか?
いや、聞くべきだろう。
もしかすると、俺を悩ませていた、春百合ちゃんに持っている嫌な気持ちの原因がわかるかもしれないのだ。
少なくとも今俺は、春百合ちゃんに対して、嫌な気持ちはもう持ちたくないと思っている。
俺は、春百合ちゃんに、
「前世の話をしてくれないだろうか? もしかすると、春百合ちゃんが言うように、一旦は春百合ちゃんのことが嫌いになるかもしれない。その嫌いになった気持ちを乗り越えるには、時間がかかってしまうかもしれない。でも俺は必ずそれを乗り越える。春百合ちゃんのことが俺にとって、とても大切な存在だと認識する為には、この前世のことを把握し、二人でいい方向に向かっていかなくてはいけないと思っている」
と言った。
言っている内にだんだん恥ずかしい気持ちになってきた。
特に春百合ちゃんのことを「とても大切な存在」と言った時は、恥ずかしさの一つの頂点を迎えていた。
しかし、同時に、「とても大切な存在」という言葉は、どちらかというと、この場の勢いででてきた言葉なので、自分でもどういう位置づけをしたらいいのか、悩み始めていた。
幼馴染としてなのだろうか?
それとも恋する対象としてなのだろうか?
この二つということであれば、恋の対象ということになるだろう。
今まで俺は、春百合ちゃんのことを嫌な存在と思ってきたが、それが弱まってくるとともに。春百合ちゃんへの恋する気持ちが湧き出そうとしているところだ。
まだ恋をしているというところまでは到達していない。
ただ、改めて思っていくと、俺が春百合ちゃんに言った、
「とても大切な存在だと認識する為には、この前世のことを把握し、二人でいい方向に向かっていかなくてはいけないと思っている」
という言葉は、俺が既に、ある程度春百合ちゃんに恋をしていることが前提になっている気がしてきた。
そして、その恋する気持ちをもっと高めていきたい、と言っているように思える言葉だ。
まだ俺の心は春百合ちゃんへの恋の入り口の前にいる。
俺は少し言い過ぎたかもしれないと思った。
その思いが、俺をまた恥ずかしい気持ちにさせていく。
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