第35話 俺の家に一緒に行く春百合ちゃん
「迷惑でなければだけど、春百合ちゃんの心を落ち着かせてもらうのが目的なので、リラックスしてもらう為に、紅茶とお菓子を提供しようと思っている。春百合ちゃんのその前世の話もできれば聞きたいけど、つらそうなことのようだから、話さなくても別に構わない」
俺がそう言うと、春百合ちゃんは、
「お気づかいをしてくれてありがとう。でも、わたしが浜海ちゃんの家に行ったら、浜海ちゃんの迷惑になるんじゃ……」
と申し訳なさそうに言う。
「そんなことは気にしなくていいよ。それよりも、春百合ちゃんの気持ちが少しでも良くなっていくことが大切だ。今のままだと、自分の家に帰っても、部屋に閉じこもってしまう気がしているから」
「浜海ちゃんの言う通りだと思う。このままだと、当分の間、泣き暮らしてしまいそうな気がしている。でもそれは、わたしが浜海ちゃんを前世で酷い目に合わせてしまったからなの。仕方がないことだと思っている。こんなわたしでも浜海ちゃんの家に来ていいのなら……」
「俺の家でとにかく落ち着こう。春百合ちゃんが前世のことで苦しんでいることは理解した。でも今は、そのことで苦しむよりも、古沼との対応で疲れてしまった心身を癒す方が先だ。それが、春百合ちゃんが今一番しなければいけないことだと思っている。さあ、行こう」
俺は春百合ちゃんにそう言うと、春百合ちゃんは、
「ありがとう、浜海ちゃん。お言葉に甘えることにします。よろしくお願いします」
と言いながら頭を下げた。
俺たちは、二人きりで俺の家に入った。
普通異性どうしで、二人きりになったら、胸のドキドキは大きくなっていくものだと思う。
恥ずかしい気持ちでたまらなくなってしまうものだと思う。
そして、その気持ちが恋に変化し、二人の関係をもっと進めていきたくなるものだと思う。
まして、春百合ちゃんは美少女なのだ。
いくら、嫌な存在だと思ってきたとは言っても、こういう状況になれば心は動く可能性があるといっていいだろう。
そして、俺は、その嫌に思っていた気持ちが弱まっているところだ。
今までの気持ちを乗り越えて、春百合ちゃんに恋をすることもありえない話ではない。
では俺は今どういう状態なのか、と言うと、胸のドキドキはさすがに大きくなってきたし、恥ずかしい気持ちもあった。
しかし、全体的には春百合ちゃんの心を落ち着かせようという気持ちで一杯になっていて、その他のことについて考慮をする余裕はなく、恋というところに到達するほど心を動かされることはなかった。
俺は、少し高級な紅茶とお菓子を用意した。
そして春百合ちゃんが座っているソファーの前のテーブルに置いた。
俺もソファーに座るが、春百合ちゃんとは向い合せになった。
俺たちは紅茶を飲み、お菓子を食べる。
「浜海ちゃん、紅茶もお菓子もおいしい。ありがとう。うれしい」
ようやく春百合ちゃんも微笑み始めた。
「気に入ってもらって、俺はうれしいよ」
春百合ちゃんは少し落ち着いてきたようだったのだが……。
「わたしは今日、浜海ちゃんに救けてもらったことで、ますます浜海ちゃんのことが好きになった。ありがとう」
春百合ちゃんはそう言って頭を下げた。
そして、頭を上げると、話を続ける。
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