第34話 涙を流す春百合ちゃん
古沼は、力のない歩き方で、俺たちのところから去っていった。
これで、古沼の脅威は去った。
春百合ちゃんも安心しているだろう。
そう思っていたのだが……。
「浜海ちゃん、ごめんなさい」
春百合ちゃんはそう言うと、泣き出した。
今までは、蒼ざめた表情をしていても、古沼に対しては気丈な対応をしていたのだが、どうしたのだろうか?
ずっと緊張を強いられていたので、その緊張の糸がここで切れてしまったのかもしれない。
俺は、
「もう大丈夫だ。安心していい。古沼はもう春百合ちゃんに対して強引な告白をすることはないだろう。もし万が一、また同じようなことを繰り返しそうだったら、春百合ちゃんは俺が守る」
とやさしく言った。
こういう言葉は、言うつもりはなかったのだが、涙を流す春百合ちゃんを慰めるにはこういうしかないと思った。
もちろん言うからには、春百合ちゃんを全力で守っていかなければならない。
幼馴染の領域を越えている気もする。
でもこういう経験をした以上、春百合ちゃんはまた同じような目にあいそうになったら、救けるのは当然のことだ。
俺がそう思っていると、春百合ちゃんは、
「浜海ちゃん、ありがとう。今日救けてくれて、わたし、ますます浜海ちゃんのことが好きになったの。でも……」
と言ったのだが、途中で声がつまってしまった。
やがて、少し声が出るようになったようなので、続ける。
「わたし、浜海ちゃんにとても申し訳ないことを、前世でしていたの。信じられないかもしれないけど、古沼くんが最後に話をしていた頃から急激に前世の記憶が流れ込んできたの。それはあまりにも酷いものだった。浜海ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい」
涙を流しながら、頭を下げ続ける春百合ちゃん。
俺は春百合ちゃんが泣き出すまでは、ここで春百合ちゃんと別れて家に帰ろうと思っていた。
しかし、春百合ちゃんの方は、家に帰らず、多分このまま泣き続けてしまう可能性が強そうだ。このままの状態にしておくわけにもいかない。
俺の家に連れて行き、春百合ちゃんの話を聞いて、春百合ちゃんの力になる必要がある。
困った人を救けるのは、俺の信念になっているからだ。
ただ、思春期を迎えた女性と家で二人きりの状態になるのに対しては、抵抗はあるし、恥ずかしい気持ちもある。
俺が思春期を迎えて以降、女性を自分の家に入れること自体は初めてではない。
四人で遊んでいた時は、寿屋子ちゃんと春百合ちゃんが家に来ていた。
しかし、今回はそれとは状況が大きく異なる。
春百合ちゃんはOKしてくれるのだろうか?
俺のことが好きではあっても、男性の家に行くことについての抵抗はあるかもしれない。
俺も思っているように、恥ずかしい気持ちもあるかもしれない。
でも、そう思っている間にも、春百合ちゃんの涙は止まらない。
俺は春百合ちゃんの力になり、春百合ちゃんを救っていきたい!
そう思った俺は、
「春百合ちゃん、俺は幼馴染として、春百合ちゃんが泣いているのを、そのままにしていることはできない。俺の家にきて、少し心を落ち着かせるのがいいような気がする。もちろん、春百合ちゃんが良ければの話だけど」
と言った。
春百合ちゃんは驚いたようだ。
涙を拭くと、
「浜海ちゃんの家に行っていいの?」
と小さめの声で言った。
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