第33話 イケメン古沼との対決
「里島さん。もう一度言わせてくれ。俺はきみを幸せにできる唯一人の存在だ。さあ、俺のところに来てくれ! お願いだ!」
古沼は再び手を春百合ちゃんの手に近づけていく。
俺は古沼と春百合ちゃんの間に入り、手を春百合ちゃんの手には近づけさせない。
「俺のじゃまをするな!」
心が沸騰している古沼。
「里島さんは、あなたと付き合わないと言っている。もうあきらめなさい」
「なぜあきらめなければならないんだ。俺はイケメンだ。里島さんにふさわしいのは俺だ。俺しかいないんだ。きみのように、ただの幼馴染で、里島さんと付き合っていないし、好きでもない人間にじゃまされる筋合いはない!」
「まだそんなことを言っているんだね。里島さん自体があなたと付き合うことを断っているというのに。いい加減あきらめるべきだ。これ以上ここで粘っても、里島さんの心があなたの方へ動くことはない。あなたには、里島さんを幸せにする力はない」
「よくもそんなことを……」
「まずあなたは、今まで、心を傷つけてきた女性たちに対して謝るべきだ。そして、これからは、女性と付き合うにしても、浮気はしてはいけない。そういう根本的なところからやり直さないといけない」
「俺に対して物を申すとは、たいしたやつだな。でも俺はきみの言うことを聞く気はない!」
そう言って春百合ちゃんに近づこうと努力する古沼。
俺はその前に立ちはだかり、それを防ぐ。
対峙をそのまま続ける俺と古沼。
俺は絶対に古沼を阻止できると思っていた。
冷静で気力が充実してきた俺。
毎日、一生懸命努力して強い心を作ってきたことが、ここで役立ってきている。
それに対して、古沼の心は沸騰し続けていた。
何度も俺に対して、
「俺のじゃまをするな!」
と叫び。俺を押しのけて、春百合ちゃんの手を握ろうとする。
しかし、俺はその度に阻止し、春百合ちゃんの手に近づかせない。
「いい加減にしてくれ! 俺は里島さんと付き合いたいんだ!」
古沼がそう叫んでくるのに対しても、俺は。
「里島さんは、あなたとの付き合いを望んでいない。そして、里島さんの幸せを壊すとわかっている相手と付き合わせるわけにはいかない」
と言って、冷静に対応する。
この対応で少なからず、古沼は打撃を受けたようだ。
そして、春百合ちゃんも、
「わたしは夏居くんが好き。何度告白されても、古沼くんとは付き合いません」
と言う。
古沼は、
「そんなことを言わないで、俺と付き合ってほしい」
と春百合ちゃんに言うのだが、春百合ちゃんは強い意志で断り続ける。
ここでも古沼は打撃を受けたようだ。
こうして対峙をしている内に、古沼はいつまで経っても春百合ちゃんの手を握るどころか、近づくことさえもできない為、だんだん疲れてきたようだ。
「なぜきみはそこまで冷静でいられるんだ。俺は怒りすぎて疲れがたまってきたし、気力の方もだんだん失われて始めてきているというのに……」
「こんなことをしていても時間の無駄だと思う。あなたがあきらめてくれればいい話だ」
俺の気力は充実していて、疲れを感じることはない。
「里島さんのことをあきらめたくはない。こうなったら、力づくでもきみを押しのけて、里島さんと付き合いたい……」
古沼はそうつぶやくのだが、その気力は失われてきているようだった。
そして、夜が少しずつ近づいてきた頃、古沼はすっかり気力がなくなってきたようで、
「俺はきみにじゃまされて、里島さんの手を取ることができない。悔しい……」
と言ってうなだれてしまった。
「もうあなたは里島さんのことをあきらめるべきだと思う」
俺が冷静にそう言うと、古沼は、
「あきらめたくはない。だが、きみには勝つことができない。きみの冷静さによって、俺の戦おうとする気力は失われてしまったんだ。悔しくてしようがない」
と力なく言った。
その後、少しの間うなだれていた古沼だったが、やがて、俺たちの方を向くと、
「俺はイケメンなんだ。俺の愛の告白を受けた女性は全員俺のものになった。二人だけの世界にも、すぐに入っていけた。それなのに里島さんは、俺を受け入れてくれなかった。それだけではなく、よりによって俺のじゃまをする幼馴染が好きだと言う。その男は里島さんのことを好きだとは言っていないというのに、なぜそんな男のことを好きになるというのだ。そして、なぜ俺のものにならないんだ……」
と言って、涙を流し始めた。
そして、そのまま、よろよろと力なく歩き出して行った。
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